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何をメモするのか? - 美術館でのメモの取り方【最新版】
前回はメモをするツールについて触れましたが、今回はメモをする内容についてです。
目的をはっきりさせる
そもそも、「メモを取ろうかな」と思うに至ったのには皆、それなりの理由があったのではないでしょうか。
前回も触れたように展覧会の印象・記憶がまるでない、知り合いに展覧会の説明をしようとしても説明が要領をえない、日記やSNS、ブログに書こうと思ったが、内容が薄過ぎる… たとえばそういう経験したことで、多かれメモの必要性を感じるようになったのではないかと思います。
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基本的にはそういった、各自の目的を果たすことができればメモはそれで十分です。もちろんそれ以上書きたければ、お好きなだけ書いていただければと思います。
例えばSNSに気の利いた数言書くだけでしたら作品個別の詳細な感想はいらないですし、反対に1000〜2000字のレポートを書く場合でしたら、展覧会全体の印象だけではとてもじゃないけど埋められません。ちなみにSNSやこのnoteなんかでかれこれ5年ぐらいレポートを書いている私の場合、「ある程度読みでのある文章(文字数で言えばだいたい800字以上)を書く」という縛りがあるため、メモの内容も自然とそういった、割と細かいものへとなっていきました。
そういう意味では「正しいやり方」というものはなく、ある人の不正解が別の人の正解ということもありえます。が、今回は「美術館展示室におけるメモ」についてであり、その条件下においてなら経験者として、ある程度言えることもあります。
展示室でしか書けないことを書く
展示室とはどういう場所でしょうか?
展示室と他の場所との違いは何でしょうか?
正解は、本物の作品(資料)に触れられる、ということです。
芸術作品もピンキリとはいえ、高いものであれば数十億は当たり前にするような世界。個人収集しようにも当然限界もあります。
そんな貴重な作品に触れられるのが展示室という場にほかなりません。配信全盛の今でも直接対面のイベントやコンサートに高い需要があるようことからも、本物でしか味わえない感動があることについてはわかっていただけるかと思います(このようなオリジナルが持つ権威性を「アウラ」などと言ったりもします)。
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しかし同時に、作品に触れられる時間は永遠ではありません。
営業時間の長い森美術館でも、一つの作品に居座れる時間は1日12時間が限界です。美術館の従業員ですらそんなに長時間一つの作品に固執することはできないでしょうし、人間の集中力・体力等を踏まえれば、一つの美術展に滞在できる時間となると、おそらく1-3時間ぐらいが限界でしょうか。
いずれにせよ、よほどの専門職でもない限り、展覧会にいられる時間が有限であることは確かです。
その有限な時間を最大限無駄にしたくない。
できることなら美術鑑賞本来の、作品を楽しむ時間にその時間を費やしたいところです。メモを取る時間に時間をかけすぎ、時間・体力・精神力…余計なリソースを注ぎ込みたくはありません。
長い前フリとなりましたが、大切なのは、その場でしか味わえない、知り得なかったであろう記憶・感情、本物を見たことで気づいた発見・感動などを記録することにほかなりません。
要点のみを書く
では反対に、展示室でやらなくていい、省略できる作業とはいったい何でしょうか?
以前noteにも書きましたが、「キャプションに書いてあることを逐一メモを取る」といったメモの仕方をしている方を複数回かお見かけしたことがあります。それが一つ二つの作品であればまだ良いのですが、大多数の作品において、そういう詳細なメモを取るのは少々考えものです。
それよりも、そのキャプションを見て自分が何を考えたかのほうが遥かに重要です。あとで記憶力テストをする、あるいはよほどの美文であるというのなら別ですが、作品情報・作家プロフィール・年譜…そういいったものを一字一句写すことはほとんどの場合、意味はないものと思います。
書くとしても、書いてあることの要点や気になったことだけを単語単位で抜き出しておけば十分です。
どうしても作品情報が欲しい場合、作品リストや図録を入手した方がはるかに効率的がよく、かつ正確です。図録自体は必ずしも購入しなくても、展示室内にある長椅子に、盗難防止用のチェーン付きで備え付けられていたりもしますので、そちらを写すという方法もあります。
ろくに作品も見もせず、作品横のキャプションに長時間滞留するのも状況次第で周囲の迷惑になりえる行為です。福澤諭吉の『愚民には辛き政府あり』ではないですが、特定の来場者による周囲への配慮不足によって、結果として来場者全員が不利益を被るルールを設定せざるを得ない、なんてこともままあるため、個人的な要望としても避けてほしいなというところです。
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その日のうちにメモを見返す、追記する
以上は一例ですが、とにかく展示室で感じたことを書くということが基本となります。効率性の観点から、要点のみを書くということもポイントと言えるでしょう。
そして、具体的にどんな内容を書くべきなのか?
何を書いても大丈夫です。
特定の作品について「やべー」「かっけー」でも良いですし、作品番号だけを書いておいて二重丸をする、☆マークをつける、それぐらいでも案外大丈夫です。実際、私のメモにもそんな頭の悪そうな言葉が並んだりもします。展覧会ではそこまで詳細に言葉を書けないという事情もあります。
今回の話は「メモのためのメモ」というより、あとで別のアウトプットに活用するためのメモについての話ですが、要するにあとで見返したとき、作品のことを思い出せれば何を書いても大丈夫です。
ただし、そういう書き殴りに近いメモは時間を起きすぎてしまうと意味不明になってしまいます。例えば展示室を出たあとの休憩中、食事中、移動中…なるべく記憶が新鮮なその日のうちにメモの内容を振り返り、必要に応じてメモを補足・追記したいところです。エビングハウスの忘却曲線なんかでも、なるべく早くの"復習"が推奨されていますね。
個人的な経験としては、夜寝てしまう前までには済ませておきたいところでしょうか。この作業をサボったまま眠ってしまうと、翌朝にはかなりアバウトになってしまい、メモの価値もだいぶ下がっていくこととなります。note、Instagramの記事執筆で地獄を見ること間違いなしです。
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振り返りをしなければ本当に「やべー」「かっけー」で終わりますが、展示室にいた時は時間に追われて書けなかった、「筋肉隆々で男らしい」「まっすぐな瞳に意思の強さを感じる」といったより具体的な印象をさらにプラスアルファすることができます。そうすることによって展覧会の印象がより強く残り、記憶に定着しやすくなるかと思います。
ちなみに私の場合は、なるべくその日のうちにSNS(Bluesky)に簡単な感想を書いてしまうことにしています。
つまりは軽いアウトプットをするわけですが、私の場合目的はnoteやInstagramに感想を書くことなので、そこである程度書いてしまえば、多少日を置いてもそれを参考に感想を書くことは可能です。
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