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「土門拳の古寺巡礼」(東京都写真美術館)
自身の脳出血をきっかけに小型カメラが取り扱えなくなり、大判カメラでの撮影を始めたという土門拳。
もちろん手軽に取り扱える代物ではなく、それで撮影された画面には非常に高い安定感があります。結果論ではありますが、それは土門拳の重量感ある作風とよくマッチしているように思いました。
もうひとつ感じたのは仏像の顔や衣紋といった「部分」に対するアップショットの使用。カラヴァッジョを連想させる、黒バックの使用も特徴的です。仏像の表面にある塗装の剥げ、柱の表面に観られるひびなども丹念に撮られているという印象でした。
土門の関心が対象の造形であるのはキャプションからも明らかですが、同時に対象が持つ歴史的蓄積にも関心を払われているように思いました(造形を追いたいのならレプリカで…ということにはならないと思います)。風雪に耐えて残った造形にこそ、仏像の本質を見出しているように感じました。
個々を深く掘り下げた写真とは反対に、周囲の環境(寺、森、空etc.)との「関係」に着目した作品も秀逸です。日本的な伝統を追いつつも前述のパーツ撮影、また石塔の写真などは抽象芸術に通じるところもありました。
昨年から積極的に写真展も観るようになりましたが、そこまで詳しくなくてもなぜか「王道」を感じてしまう、素晴らしい展覧会でした。
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