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入院ダイエットって、本当にあるんですね。

 これを書いているのは5月31日の夕刻。
 とりあえず、退院ができそうである。

 できそうである、というのは、その是非は明日朝の血液検査の結果で決まるからである。こういうのは諸々コンディションが整ったうえでの最終確認だと思うのだが、実は前回、私はここで引っかかってしまっている。明らかに退院させられない症状が出ていたこともあり、予定より短い期間で退院…とは残念ながらならなかった。

 飲み薬の調整をしていただいたこともあり、そんな前回と比べればはるかに頭もクリア、体も普通に近いコンディションであるが、どうにも心配性が抜けない私、この一晩で何かあるんじゃないか、また予想もしない病気が見つかったりしないか…などと戦々恐々としている。そしてこれを書いている今、事務の方が請求額の概算書を持ってきてくださった。

 それにしても痩せた。
 先に結果を言うと、身長176cmに対し、入院が決まった4月16日の体重は90kg。手術前日(入院日)となる5月9日、ほぼ20日後の体重が83kgであり、そしてこれを書いている5月31日に測った体重は74.4kg。実に45日ほどで15.6kgも減少したことになる。

 入院期間としては3週間ちょっとだが、実はそれ以前、病院側からダイエットを求められてもいた。
 今回は腹部の手術であり、内臓脂肪がありすぎることが今回予定されている手術に支障があるとのこと。場合によっては、予定とは異なる例外的な手術をしなければならない可能性があるという(あとで聞いた話だと、200以上の手術の中で、その例外的な手術をしたのが1件のみであり、その1件が私の状況と合致していたとのこと)。手術こそ1回で終われるが、障害の程度としても深刻なものとなり、消耗品購入の経済的な負担も増えていく。

 ただ当初、私本人としては「どっちにしても…」みたいな、すでに後ろ向きになってしまっている部分もあった。あとで振り返るからこそわかるが、後ろ向きな気分でいると、自分はいつも例外的なケースを引くんじゃないかというふうな、ネガティブな思考バイアスがかかってしまう。
 しかし、そんな私以上に、周囲の負担が大きい。日常的なことは私一人でもできるにせよ、トラブルがあったときは周囲の助けが必要になる。場合によってはプロに頼まなければいけないかもしれない。
 そして、周囲の負担が大きいということは、頼れる周囲がいない場合は、私への負担がもっと大きいということにもなるのではないか…そこまでは考えていなかったが、通常の手術で終わったほうが、周囲への負担がまだ少ないものにとどまりそうな気がする。あやふやな、しかし切羽詰まった気持ちで、私はダイエットを始めた。

 人生でダイエットに成功したことなど一度もない(過酷な職場環境に晒されて一時的に痩せたことはある)。身長176cmに対して当時の体重が90kg。「肥満(1度)」に該当するBMI値29に対し、「普通体重」のギリギリ範疇であるBMI値25、体重にして80kgにいかに近づけられるかが今回のテーマとなった。
 さらに今回は手術日まで3週間という、時間的制約もある。一般的に1ヶ月で、ダイエットで痩せられる体重の最大目安は体重の10%までというらしいので、3週間ならだいたい6kg、ちょっと頑張っても8kgが上限というところだろうか。痩せられるのなら10kgでもそれ以上でも痩せたいのが本心だが、別の問題が発生して手術中止、また予想だにしない支障が残ってしまったら本末転倒、というか最悪である。

 先に書いたとおり、結果的には83kgと、7kgの減量をすることに成功した。よほど追い込まれていたのだろう。「上限」を若干上回る形ではあるが、頭が痛い、フラフラするというようなことは一切なく、またダイエット特有のストレスを抱え込んでいる風でもない。血液検査などをしたらひょっとしたら何かしら問題が見つかる可能性はあるかもしれないが、とりあえずは成功と言って良いんじゃないか…と、入院前、私は自画自賛をしていた。

 ダイエットの方法としては、食事・運動・サプリメント・半身浴の4つ。特に食事に関しては重要度の高さを感じ、強いこだわりをもって対策を立てた。

 まず朝昼晩のごはんのカロリーを合計600-700kcal程度(一応カロリーは確認するが、あくまでもイメージ)に抑え、最低限のおかずを確保するためにご飯は半分程度に減らす。当然しっかりとしたおやつは食べない(辛い時の塩飴程度)。飲み物はスポーツドリンクのほか、トクホの痩せるお茶なんかも摂取していた(サプリメントとは成分が重複しないもの)。
 こういうダイエットをしているとよく「やせる料理」みたいなオリジナルの料理レシピ、あるいはカロリーゼロの〇〇というようなものが話題になる。しかし、私自身は特別そういう料理には手を出さなかったし、カロリーゼロのダイエットフード系もこんにゃく麺と豆腐麺を最初の頃に一回ずつ食べたっきりで、(お茶は別として)基本的に普通の白米とおかずを、量を減らして摂取していた。ダイエットではあまり目にしない、シャウエッセンみたいなソーセージも普通に食べている。

 確かに「ダイエット用」という肩書がついている食品をちゃんと食べればたしかにもっと健康的に痩せられたのかもしれない。
 しかしもともとは焼きそば、カツカレー、炒飯、ラーメンのようなB級グルメ、あるいはカップ〇〇的なジャンクフードなんかも好んで食べる人間である。そういう人間がダイエットだからと言っていきなり炭水化物抜き、鶏の胸肉とブロッコリーサラダ中心の食生活になっても、かえってストレスを溜め込んでしまうことは想像に難くなかった。
 一番最悪なのは、そうしたストレスの蓄積の結果、ダイエット自体を諦めてしまい、暴飲暴食を始めてしまうことである。地下労働のカイジのように、我慢の限界を超え、無尽蔵に食べだしてしまっては元も子もなくなってしまう。"今回に限っては"ほどよく、ジャンクフードへの欲を許してあげることが、今回に限っては必要だと感じた。

 そもそも今回はボディメイクやフィジーク大会出場を目標にしているわけではない。あくまでも体重そのものを減らすこと「のみ」が最大にしてほぼ唯一の目標である。必要な運動もしているし、それとセットで筋肉が減ったところで、今回に限っては重要なことではない。
 というわけでウィンナーも食べていたし、カップラーメンが食べたいときはミニにして、他のおかずや追いご飯的なものも一切ヌキにして食べていた。

 ただしもちろん、カロリーの壁があるので、シャウエッセンやミニのカップヌードルは食べられてもとんかつ、焼きそば、カレーライスというものは禁忌ということになる。しかし、通常とは違うアプローチのダイエットだったこともあり、ちょっとした「欲」の満たし方も発見した。
 たとえばダイエット中のとんかつなど論外だが、最近駄菓子で見かけるペヤングソース焼きそば味のカツ菓子の場合、1個10円の極小サイズなら9kcalで済む。とんかつが1枚460kcalなので、実に451kcalの節約である。さすがにこれをおかずにする訳では無いが、とんかつを我慢する方法としては十分である。その他、焼きそばが食べたいあまり、白ご飯をソースで炒めたり(焼肉のタレを少量隠し味に使うのがポイント)、カレーが食べられない代わりにカレー味のふりかけを使うなど、時々襲ってくるカレー欲、ソース欲を満たしていた。

 運動・サプリ・半身浴に関しては特別変わったことはしていない。ただサウナスーツを着用し、長めに運動をしていたというぐらいだろうか。サプリメントはひたすらカロリミット、半身浴は途中、より多くの発汗を促そうとサウナポンチョをダイソーで買ってきたこともあるが、管理が大変で結局使わなくなった。

 かくして、人には到底薦められないダイエットをした私は、なんとか83kgにまで体重を落とすことができた。ただ、あまりにも急激なダイエットなだけに、これで肝心要である内臓脂肪が落ちているかと言われると自信はない。フラつきもなくストレスもなく…メチャクチャな痩せ方の割と何も感じていないことがかえって心配になった(もっとも、「大丈夫だろうか…」という心理がかえって、自分をより強度の高いダイエットに駆り立てたという側面もあるのだが)。

 そして手術前日。
 入院着姿となった私を見て、手術の担当医(外来の時とは別の医師)は想定よりも少なからず痩せている私を見て、「話が少し違う」と思ったらしい。
 私はダイエットの話、そして内臓脂肪に対する懸念を正直に伝えた。その話を聞いた担当医は

「論文で、急激なダイエットでも内臓脂肪は落ちると読んだことがある」

 と言い、

「これならなんとかなりそう」

 とも付け加えてくれた。
 かくしてその翌日、現実は担当医の言ってくれた通り、予定通りの手術のみで終了することができた。ただし、8時間予定の手術が11時間になっているだけでも、手術において内臓脂肪が影響を及ぼした可能性があるんじゃないか…そんなことを疑ってしまったりもする。7kg減少に意気揚々としていた私ではあるが、BMI値でいえば26.79、冷静に考えれば「肥満(1度)」であることには変わらない。
 いずれにせよ、成功は私がダイエットをしたからではない、あくまでも病院スタッフのご尽力の成果である、その点は間違いないだろう。

 そして現在の体重は74.4kg(測ってきた)。ダイエット開始時から合計すれば実に15.6kgもの減少となってしまった。
 手術前日の昼より絶食し、手術後、飲水が許可されたのが術後5日目、ほぼ「味のついた水」でしかなかった流動食を経て、形のある食事が出るようになったのが術後9日目。さらに、この文章の冒頭に書いた、退院できなかった理由というのが「脱水症状による食欲不振」であり、食事が全く食べられず(そもそも起き上がれない)、2−3日ゼリー飲料とスポーツドリンクで飢えをしのいでいた時期があった(現在はもちろん回復)。

 しかしそんな日々とも(一時的にだが)ララバイすることができる。ドカッとチャーハンあたりをかっこみ、餃子あたりでも喰らいたい気分だが、筋力も落ちているだろうし、少なくとも二度目の手術がある再入院までは体重管理もキチッとしていかないといけない(肌感覚として、許されて+2kgだろうか)。まだまだ心してかからねばと思う。

 そして翌日となった6月1日、血液検査は良好ということで退院がすることになった。ひとまずの結果に、私はそっと安堵をしていた。

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