「デ・キリコ展」(東京都美術館)
一般的に「絵画」というと、たとえば人物や池、リンゴというように、現実にある何かしらの「もの」が描かれていた/いるもの。それが20世紀に入り、キュビスムや抽象絵画が登場すると、その「常識」が少なからず揺さぶられるわけですが…同時代を生きたデ・キリコの描く「形而上絵画」の場合、石像、マヌカン(マネキン)、どこかしらの路上、室内という風に、描かれているものはいちおう現実に存在するもの。
しかし問題はその描かれ方。たとえば自画像であれば笑わせる風でもなく闘牛士の格好をしてみたり、静物画の右上に自画像の額縁を「ワイプ」のように置いてみたり…室内画でも通常ありえない現象・事物が描かれたり(デペイズマンと言ったりします)、そのモノも縮尺・バランスがおかしかったり。モノだけでなくそれが置かれている空間も歪んでいて、その不自然さは観る側の心をざわつかせてくれます。違和感・不安・憂愁…表現の仕方は様々ありますが、それはより普遍的な、時代の感覚を言い当てているようにも思いました(ニーチェやショーペンハウエルの影響というのも納得です)。
個人的な感覚としては、現実というよりは現実の再構成、夜に見る、でたらめな世界観の夢を見ているようでもあります。形而上絵画を離れ、古典主義に傾倒した時期もありますが、それでさえ現実の古典作品とは別物、過去をなぞりつつもデ・キリコ流の解釈・再構成を感じます。
彼の「形而上絵画」の後に続くシュルレアリスムと同様、画面からはデ・キリコの本音、感情といったものが見えにくいところは正直あります。ただ、第一次世界大戦を受けて大理石像に代え、より無機質なマヌカンを描き始めるなど、時代と無関係に描いていたとは言えない側面もある様子。
戦後(デ・キリコにとっては晩年)、彼は「新形而上絵画」として再び初期の画風に戻っていくのですが、輪郭線がマジックで描いたかのように明確になり、色合いも彼なりに明るくなったように感じられたのも印象的でした。
明るい部類の展覧会ではないかも知れないのに、じっくり観たあとで妙な満足感も残る、不思議な展覧会でした。テーマ別で観たあと、展示作品を西暦順にソートし直したくなったり、いろいろな形で作品群に触れたくなる作品群です。
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余談ですが、展示の中盤で集中的に展示される彫刻などを観ると、(絵画とは違う)的確な人体の縮尺にちょっと癒やされたりもします。そういった休憩(?)ゾーンを挟みつつ、ご自由に楽しんでいただければ。
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