「野犬」と自称していた人間の悲哀
吉田直樹P/Dは、自身と率いている組織のことを「野犬の群れ」と例えることが多い。これは長年スクエニでやってきて自分よりも能力や才能に溢れた人間を多数見てきたからこそ出た言葉だと思う。
若干、古い話になるが、吉田氏の組織が第三開発事業本部と呼ばれていた時代、第三があるなら第二第一は何を開発していたかと言うと、第二は主にドラクエ、第一はFF7リメイクにサガ、そしてキングダムハーツである。
買い切り型のゲームとしては、ほぼどのコンテンツもスクウェアエニックスを代表するタイトルであり、自社他社共に認めるエース級のコンテンツである。人材も相応に優秀な人間が集まっていることだろう。
選りすぐりの人材を用い、最新の技術をふんだんに投入して作られるコンシューマゲームの部署、スクエニにとってはこちらが間違いなく主流的存在だったのだ。(個人的にサガの扱いがここまで大きくなるとは思ってなかったけど)
それに対して吉田氏率いる組織はどう見られているのだろう。
今となっては古くなっているグラフィックやプログラムの設計を使い回し、厳密にコストを管理し、MMORPGというサービスを継続させて月々のプレイ料金で利益を挙げる。大型パッチの納期が間に合わなければP/Dの泣き落としも使って無理やり何とかする(大企業の取締役の涙をまさかガチ泣きだと勘違いする奴はいないよな?)。
しかし新規タイトルはほぼ開発しておらず、近年で言えばファイナルファンタジー16くらいか?ソフトウェア開発というよりもどちらかと言えばオンラインサービスの開発、運営と言った趣の部署だ。ソフトウェアを新規開発し、ヒットさせることによりここまで飛躍してきた企業としては、この部署は失礼な言い方だが相対的に傍流と言える。吉田氏自身もそのような思いが少なからずあったからこそ「血統書付きの犬」に対する「野犬」と自称していたのだろう。
数年前、FFキャラの人気投票でエメトセルクが一桁台の順位にランクインして「誰だこのおっさん!?」と驚かれていたが(筆者もその一人)、あの反応こそシリーズ内でのFF14のポジションを如実に表している。
「ナンバリングタイトルの中でなんか敷居が高そうな『傍流』の作品」、大多数のゲーマーにとってそんな認識でなければ、上記のような反応はされなかったはずだ。
そんな立場だったFF14も近年、状況が変わってきた。
社長自ら「FF14を宇宙一にする」と激推し宣言。これがただのファンボーイとしての発言ならよかったのだろうが、その真意は十中八九「今後、これをメインに推して利益を挙げていく」という宣言だろう。
事実、有名配信者に案件動画の配信を依頼したりPENTAXを始めとする他企業とコラボしたりグッズを出したり……トドメに制作体制の一新、シーズナルイベントの統合、シナリオの劣化(特にロールクエスト)など挙げればキリのない露骨なコストカット。
ついでに吉田P/Dも海外への営業等によりプレイする時間が取れなくなりつつあるのか、マーブルやウケブのようなメインクエストで出番の多かったNPCの把握すら怪しくなり始めている。
原因はまず間違いなくFF14がここまで躍進してしまったこと。そして他部署が「傍流」を主力にしなければやっていけないほど衰退していっているためだ。
もしFF14が今より人気の低い、「ほどほど」のポジションだったら、そして他部署がヒット作をガンガン出していてFF14を「主流」として推さずに済めば……吉田P/DもFF14に専念できたし欲を出してグラアプデを実施する、というような惨状も招かなかったと思うのだ。
社内で長らく「傍流」だった筈なのに、ここに来て「主流」として担ぎ出されてガンガン営業をかける羽目になった吉田氏にもついでにちょっとだけ同情する。本人の胸中は知らんけど。昔は「売上で社内を黙らせる」なんて言ってたらしいのになあ……。