謎解きも社会問題も愛されキャラも生み出した正統派ドラマ「アンナチュラル」と、不思議展開と芸術性と1ミクロンの感情を追求したレジスタンス「anone」
2018年1-3月期のドラマ総括。前回はこちらです。
▼金曜10:00『アンナチュラル』(TBS系) 主演:石原さとみ
どの点をとっても欠点のない隙がなく高品質なドラマだったで賞
本編と主題歌とのマリアージュが素晴らしかったで賞
でも何か素直に最高って褒められないで賞
全体的にレベルの高いドラマだった。法医学ミステリーとして、毎話発生する謎に対して通常与えられそうな答えを回避しつつ、単なる犯人探しとは異なる結論をもたらしているのが非常に良い。色恋による殺人と見せかけたウイルス感染、そこからの権力に対する問題提起。少年犯罪と見せかけたいじめ自殺に対する問題提起など、結論だけでなく、そこから社会的な問題提起を発生させるつくりは非常にクレバーだった。謎解き以外の部分でも女性差別、仮想通貨、労働問題と、ニュースの一部を見せられているようなつくり。さらにそれぞれを説教臭さなしに自然に挟みこむのも巧妙、脚本の妙と唸らせられた。
この作品を語る上で外せないのが米津玄師「Lemon」。特に後半の盛り上げに絶対的に欠かせない存在感を放った主題歌だった。石原さとみ主演と言いつつも、第1話から最終話まで引っ張るメインストーリーの中心は井浦新演じる中堂。ぶっきらぼうなキャラクター設定上、中堂によって直接語られることの少ない亡き彼女への思いを代弁するように重ねられる主題歌の存在が光っていた。音楽によって、台詞以上に視聴者の感情を掻き立てる演出の魅力。ここまでストーリー中の役割を主題歌に委ねるドラマは珍しいように思うし、一つのドラマにおける新しい表現方法にも見えた。
UDIラボの面々のキャラクター設定と役者それぞれも非常に魅力的でSNS上では似顔絵が続出するほど。視聴率も悪くない水準をキープ。うーんでもどことなく自分の言葉に棘がある気がするのは何故だろう…
実は私は「アンナチュラル」は第2話で一度離脱しており、5話までは見ていない。母より「泉澤祐希が素晴らしかった」という評判を聞いて改めて2-5話を追い視聴している。何故かというと「法医学ミステリー」というテーマが気に入らなかったから。ここから先はテレビドラマオタクの不要な深読みインテリぶりっこになるので興味のない方は読み飛ばしてほしい。
結局、今視聴率が取れるのって医療モノか刑事モノなんです。そして1話完結が理想的。視聴者がどこからでも入ってこられて安心。謎がありそれを解き明かす。患者がいてそれを治す。拍手。安心。「法医学ミステリー」って患者治しませんけどもうまさにそれそのもので、遺体来ます謎あります解きます拍手。遺体来ます謎あります解きます拍手。これを10回繰り返す、って、まあだいたい視聴率そこそこ取れるの見えてるんですよ。あの「逃げ恥」野木亜紀子さんにそれやらせるTBS…あークソつまんねぇ世の中だなと思いました私は。見る前は120%思ってて、だから途中で見るのやめて、で見た後はそんなに思ってない、でもやっぱ10%ぐらい思ってます。法医学ミステリー1話完結て、それあれじゃん「勝ちパターン」やん、「パターン勝ち」やん、最初っから見えてるじゃん、と。とはいえ明らかにこの典型的「勝ちパターン」を相当なレベルで超えてきたのが今回の作品で、それはもう間違いなく評価すべきと思います。ある程度の新規性もあったし社会メッセージも強かったし。でも本当に何か「いい子ちゃん」なんですよね、現在のテレビドラマ界における。で、そこに対するレジスタンスが今回の「anone」であり坂元裕二。単に同クールで放送されただけでついつい比較構図を作りたくなってしまう自分もどうかと思うが言ってしまえば、私いつだってレジスタンスの味方なの!だから素直に超素晴らしい最高って褒められない!ごめんなさい!私は坂元裕二が好き!いやどっちも好きでええやんって思うけどごめんなさい!でもすごく良かったレベル高いドラマだったDVD当てたいです!
▼水曜10:00『anone』(日本テレビ系) 主演:広瀬すず
キャストの実力が(チョイ役含めて)並外れているで賞
微細な心の動きを描写する坂元脚本やはり素晴らしいで賞
時代に逆らいまくってよく頑張ったで賞
第1話から最終回(現時点で最終回はまだですが)まで、各話全てのレビューをしたのでじっくり読みたい方は是非こちらをお読みください。
▼日本テレビ「anone」レビュー集
https://note.mu/kareigohan42/m/m85e88d0f944a
「ドラマの楽しみ方が分からない」という人がいたら、とりあえず「脚本家で見る」という楽しみ方をお勧めしたい。次クール何を見れば面白いのかわからない、第1話だけ見ても判断できない、つまらない作品を見続けるのは時間の無駄だから嫌、キャストしか判断軸がない、という方は新ドラマの脚本家をチェックして、過去にどんな作品を手掛けているか見てみると良い。ある程度過去にドラマ視聴経験があれば、自分が好きだった作品をつくっていた脚本家の新ドラマを選べば、キャスト軸の選択よりはずっと「ハズレのない」選択ができるかと思う。
「カルテット」「最高の離婚」と聞けば分かる人は多いはず、私を含めた一部のコアなドラマファンから高評価の「それでも、生きてゆく」、あとは「Mother」(芦田愛菜出世作)「Woman」「問題のあるレストラン」「東京ラブストーリー」(古い!)を過去に手掛けている坂元裕二氏の新作、と聞けば固定ファンが必ず反応する。ファンでなくても(一般的な好き嫌いはともかく)、過去の名作ドラマを列挙する際に名の上がる作品を多く手掛けているのは事実。新ドラマ「anone」にはかなりの期待が集まっていたように思う。
結果、ググれば分かるように視聴率で見ればかなりの低視聴率を記録した。今回の「anone」については、ドラマと視聴率、大衆、テレビというメディアの話にしようとすればいくらでもできるが、このドラマについてそんな文脈で語るのはつまらなすぎて反吐が出るのでなしとする。最後にちょっとだけね。
とにかく素晴らしかった、というかもう指5本には入る大好きなドラマになりました。
まずは作品自体の独自性。刑事モノ医療モノだらけのこんな世の中、ドクター何とかが失敗しなさすぎるドラマの世界の中で、この作品の新規性については客観的に見ても飛び抜けていると思う。往年のドラマファンでもそうそう先を読めない展開で、それはドクター何とかが絶対に失敗しないことを「安心」と言ってお茶の間に座る視聴者がひしめくこんな世の中で、「anone」が決して視聴率を取れない一因でもある。残念ながら「見たことがない」ものに視聴者が抵抗するようになってから、「見たことある」ドラマばかりになってしまっているのは事実。その中でこれだけ前半にわけの分からないトーンで展開しまくり、伏線を大量にはりまくっては変なタイミングで回収する、という物語を作ってしまったこと。これそのものにまずは「時代に逆らってよく頑張ったで賞」を贈りたい。
ただし、私が物語展開の特異性について理性的に分析できたのは前半までで、後半になってからは完全に気持ちを持っていかれっぱなしで視点が感情に寄ってしまったのでその特異性がラストまで続いていたのかは知らない。つまり感情表現が本当に素晴らしかった。これは脚本・演出・キャスト3者が出揃っての力で、毎度「名台詞」としてまとめられる脚本、ドキュメンタリーのような現実味を醸した演出、そして一人残らず「1ミクロンほどの心の動きを表現し尽くす」力を持った役者の働きによるものである。主演の広瀬すずは物語が後半に進むにつれて強くなるスポットライトに対して十二分な演技力を発揮し、田中裕子、小林聡美、阿部サダヲ、瑛太、江口のりこと続いていく隙のない俳優陣全員がこちらの予想を悠々と超えるパフォーマンスを発揮している。ここからは想像だが、演出家や脚本家など制作スタッフ側に対する俳優陣の強い信頼はところどころの作品外のインタビュー等から滲み出るものがあり、その信頼こそが俳優陣全員の圧倒的なパフォーマンスを生み出しているように思える。出演した俳優陣が自ら絶賛するドラマ、広瀬すずが「他の人が演じていたら間違いなく嫉妬していた」と話す、瑛太が「他の人にはやらせたくない、とすぐに引き受けた」と話すドラマが素晴らしいものでないはずがないのだ。その気持ちと作品に対する自信って本物だと思う。
作品の中の様々な要素があまりにも一般受けしない中で、SNSで「広瀬すずかわいい」を切り取ったり「猫かわいい」を切り取ったり、LINE LIVEやったりインスタやったりしていた日本テレビの宣伝担当は本当に大変だったと思う。作品のトーンそに合わないポップな宣伝が逆に必死さを醸していた気がしてしまったのは深読みしすぎだろうか。
正直、宣伝見ていて「何かもうそういうの無理しなくていいんじゃないかな?」と思ってしまった。でも、それじゃだめなのがテレビなのかも知れなくて、だから、なのか関係無いのか知らないけど、坂元裕二氏は暫くテレビドラマを去るという。テレビ、これからどんどん私好みじゃなくなってくかな、という予感がするが、もう少しテレビドラマを応援したい。
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