牡蠣、それは神のいかづち
牡蠣は好きな人と嫌いな人が
分かれる食べ物だ。
子どもに聞くと
「きらい」という子が多い。
あの磯の香りとぷにぷにと
お腹のみどりが無理なのだそうだ。
私も子供の頃は
牡蠣が苦手だった。
やはり、
磯の香りとぷにぷにとお腹のみどりが無理だった。
子どもにとっては
無理して食べる味ではない。
それがいつしか、不思議なことに
美味しく感じるようになるんだなあ。
*
大人の「きらい」さんは
牡蠣にあたった経験がある方が多い印象。
牡蠣のあたりは
それはもう大変で、「神のいかづち」的だという。
恐ろしや。
私は牡蠣に当たったことがないが
食べる前はいつだって
そこはかとない緊張感に包まれる。
自分で調理する時は
勿体無いけれども
必要以上に加熱してしまう。
身が縮んだって構わない。
*
そんなある日のことだった。
BBQで飲んだくれている仲間内で
牡蠣を焼いて食べようという
ことになった。
これは危ない。
何せ調理者は酔っ払っている。
そして最高に美味しい状態で
調理しようとしてくれるはずだから
「身が縮んでもいいからよく火を通して欲しい」
などという無粋なことは言えない。
ダッチオーブンに
殻付きのでっかい牡蠣。
酒蒸しに使うのは
料理用には使わないような高級な日本酒。
食べるのを遠慮するには惜しい。
しかし恐ろしい。
…
ひとたび神のいかづちに触れようものなら
明日からの予定が全部パーになる。
ゴクリ。
先陣を切った夫の友人が
牡蠣殻をナイフでこじ開け、牡蠣プリを
ついに喰らう。
彼曰く、
「…うますぎる。こんなに旨いのだから
もう当たったとしても、それは正当な罰だ。」
*
そして私たちは
最高に美味しい焼き牡蠣をとめどもなくいただいた。
今まで食べた牡蠣の中で
一番美味しかった。
あたらなかった。
いつか、あたる時が
来るんだろうか。
そして、牡蠣を嫌いになってしまう日が
来るんだろうか。
人々に恐怖を与えたハレー彗星は
また再び宇宙へと帰っていく。
牡蠣のいかづちも
またいくらかの時を経て
私たちに再挑戦に来るのである。