5日目、「読め」るようになりたい
最後マイクを掴んだときにわちゃわちゃ言った通り、詠む力を磨かなきゃとばかり思っていたからすまですが、大会を通して読みの力をもっと鍛えたいと思った。その先にもっと楽しい世界が待ってるって分かったから。
(私の最大の目的は短歌を楽しむことなので、好きな歌にはとにかく好きとだけ言ってればいいって思ってました。)
というわけで全国高校生短歌オンライン甲子園の短歌の中で好きだったやつに一首評します。
平日も出し惜しみしない滝だから水族館より滝に行きたい/俵 匠見
以前自分の歌にいただいた評の中で、「するめ短歌」って言われたことがあって、まさしくこの歌がそうだなって。噛めば噛むほど味が広がる。最初にこの歌を読んだときは正直、目に止まらなかった。でも、大会を経て何度もこの歌を目にするうちにどんどん好感度が上がっていった。「ペンローズの階段」の歌か、「爪先までが私だと知る」の歌がこの大会の中では一番好きかな、と初めは思っていましたが、今、何よりも評を書きたいのはこの、滝の歌だった。
誰かを説得するかのように根拠立てて滝の良さを述べる上の句から、この歌から広がる世界には、この台詞を言われている誰かがいると思う。自分の心の中の願望としてとどめているのではなく、誰かに言っている。そしてその相手は水族館に行きたいのだろう。なんとなく、恋人かな、と想像する。面白いのはここからで、「平日も」と初句にあるから、主体はまるで平日に滝に行きたいと述べているように見える。けしてそうと決まったわけではないが、読者は平日の滝を思い浮かべてしまう。
とにかく滝に行きたいと力説する主体と、それを呆れた目で見るその恋人。大会の中ではあまり触れられてなかったけど、滝を二度も繰り返して、密度の薄い歌なのかなと思いきや、詳しく触れなくても状況や相手がおのずから浮かんでくるような巧みな言葉選び。いいな、滝。
むちゃくちゃな論理もいい。平日の水族館は出し惜しみしてるかって、微妙だと思う。でも破綻はしてない。ギリギリでロジックを維持している。当然のことを言うのではなくて、ギリギリをついて来たところにこの歌の魅力があると思う。