短歌25首「少女戦士としての春」(U25短歌選手権 予選通過作品)
精霊がつよく額に降ってきて悪を倒せとわめく昼なか
ハイウェイに立ち尽くしたる怪人が花冷えに目を閉じている 今
選ばれてビルの向こうをたゆたえば少女戦士としての春来る
単語帳カフェテラスにてひらくとき数値化できないこもれびを受く
ミスのない簡単な語で書くべきで英作文は主張を見ない(らしい)
うたかたの終点として合格はあって分厚い制服を着る
特別は虹の速度で当然に溶け込んでゆき鳩が飛び立つ
戦いはワンクールでは閉じなくてフリルの裾の焦げあとに凪
草木はなべて受動態ゆえ教室の隅でしずかに身体を揺らす
飛ぶときも飛ばないときもひとりきり 黒板に向かい立てば眩んだ
川に火を流すみたいな哀しさが力を正義と呼ぶたびに立つ
面談で放てる技を持たぬから俯きながら辞書を捲った
雨は何を中和しようとするのだろう 短い会話のたび傷を負う
甘やかでない秘密もあるということを分かってくれない校舎、葉桜
変身は二分の猶予 風受けて戦争にある法を想った
羨望を嫉妬に変えて立ち上がる敵のほのおがわたしにもある
スマートフォンの罅割れにゆび添えながら変身の機会ばかり探した
代償は聞かされぬまま降り注ぎゆがむ、寝具に爪を立てつつ
殴り殺す感触ぐわんと再熱し耳を押さえて体育倉庫
救うとは救われるとはグラタンを端からじゅんに崩していった
校門を素早くくぐりゆくたびに敵の視線を感じてしまう
教室を囚えた闇の頂点を見てみぬふりをしてる唯一
特別が異質と化してどうしても声は未然の声になりゆく
ゆびさきに祈りを収束させていく 戦え 春のうつろを抜けて
変身!
全身をなぞり姿を変えてゆくひかりのくすぐったさがわたしだ