8日目、好きな「空」のうた
木曜日に部活で初めての歌会があった。めちゃくちゃ楽しかった。お題が「空」だったので、せっかくなので自分の好きな空のうたをいくつか紹介したいと思う(題詠から取って来てるわけではないです)。詠草一覧の最後にしれっと入れちゃおうかなと思ったけど自重しました()
ひとつめ。
「あの、それはドアではなくて空です」と うろたえながらメガホンをとる/笹井宏之『ひとさらい』
自殺の歌だと思う。自殺を止める歌だと思う。
主体は今にも飛び降りそうな誰かに向かって呼びかける。「それはドアではなく空です」と。
ドアとは何だろう。空中に一歩踏み出すことを、どうやら自殺する側はドアを開くように認識しているらしい。なんとなくわかる。死にたいのは、ここじゃないどこかに行きたいから。現実から逃げたいから。その先にあるのが無である(たぶん。たぶんね)と知っていても、死にたいと思ったら、自分の葬式の様子だったり、その後の様子だったりを何となく考えてしまうだろう。本当なら分かるはずもないのに。自分のいなくなった後の未来を見ているとき彼/彼女は現実とは違う次元にいる。それがドアの先の世界なのだろう。
では、空ですとは何か。これはそのままの空のことだろう。何の意味もない空のこと。ただの空だ、そこには何の特殊なものもないのだ、何かを見出してはいけないのだと主体は言いたいのだ。
うろたえながらメガホンを取るのが、いい。ここまで走った上の句の後は、どうしても説明的になってしまいがちである。でもここでは説明臭さが全くなく、最低限の情報を与えて終わっている。メタファーの世界を保ったまま、ほんのかすかにてがかりを落としていく。素敵。
ふたつめ。
終電の車窓の向こう(ううあう)とあなたの口の動く(空爆?) /西村曜『コンビニに生まれかわってしまっても』
空爆を詠んでいる人は流石にいなかった(歌会で)。私自身チャレンジしようかなと思ったけど無理だった。それほどにこの単語は日常から遠い位置にある。
(ううあう)って本当はあなたは何が言いたかったんだろうってしばらく考えてみたけど、何も思いつかなかった。四文字中三文字の母音が「う」の単語って、そうそうないような気がする。しかも車窓の向こうから伝えてくるような単純な言葉の中に。母音を無視して口の形だけで想像してみる……好きだよ、とかか? いや、流石に「き」の部分で違うと気づくか。
ひょっとして、と思ったが、主体は空爆に寄せて考えてないだろうか。主体の思考の片隅に空爆があって、全く違う四文字(かどうかも分からない)を言われたけど、勝手に(空爆?)と考えた。真意は分からないけど、そんな強引さがある結句だと思う。そしてその強引さが、空爆という単語、事象の持つ力に結びつく。
空爆は日常からそれほど遠くない位置にあるのだと暗に示されたような気もした。深い意味抜きにしても、なかなか忘れられない、好きな歌だ。