掌編小説『武蔵野サイクリング』
落葉樹の隙間から、初夏の日差しが肌を焼く。汗に濡れた肌を、土ぼこりを含んだ風が不快になでていった。
自転車をこぎ始めて間もないというのに、もう息が上がっている。
「榎本さん、ペース落としてくださいよぉ……」
息も絶え絶えに声をかけると、彼女はチラリと振り返って逆にペースを上げた。向こうはクロスバイク、こっちはママチャリ……とは言うものの、女性のこぐ自転車に着いていけないようでは、さすがに情けない。
この真っ直ぐに延々と続く道は、多摩湖自転車道と言うらしい。道幅は四メー