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表現も要求も拾ってゆく
あるとき、何人かの人と一緒に駅への帰り道を歩いていた時のこと。
その中に4~5歳くらいの女の子が一人混じっていました。子どもはその子だけで周りは大人ばかり。
みんなでワイワイしゃべりながら駅へと歩いていたのですが、駅まであともう少しというところまで来て、その女の子がおもむろに「足が痛~い」と言ってペタンと座り込んでしまいました。
「あともう少しだから頑張ろうよ」と周りの大人に励まされても、「痛い」の一点張りでしゃがみ込んでしまって、まったく立ち上がりそうにもありません。
それまでもたびたび立ち止まっては、周りに励まされたり、おんぶをしてもらったりしていたその子の様子を見ていたので、なんとなくその子の隣にちょこんと一緒にしゃがみこみました。
「足が痛いの?」
「うん」
「どこが痛い?」
「ここ」
「そっか。ここが痛いのか。ちょっと見せて」
そうして痛いと言う足首を触れながら、「う~ん…」と考えます。
さらに足首を少し回してみたりしながら、また「う~ん…」と考えます。
そして「たしかに足首がちょっと開いているね。もう少し締まったら良いんだけどな…」とつぶやいた後、おもむろに「あのね。足首を締めるにはスキップできると良いんだけど、スキップできる? こんな感じ」と言ってパッと立ち上がって、目の前でスキップをして見せました。
女の子の目の前で軽やかにぴょんぴょんとスキップをして見せながら、「ほら。スキップけっこう得意なんだ」と笑いかけると、その子の顔がフッとゆるんで明るくなったので、すかさず「手つなごっか」と言って手を出すと、その子もパッと手をつないで立ちあがりました。
しばらく一緒にスキップしていると、その子の表情もどんどん明るくなってきたので、「よし、じゃあこのまま行こう」と言って一緒にスキップしながら先へ進むと、「私ね、スキップ上手いんだよ」なんて言いながら、どんどん先へと引っ張っていきます。
そうして二人でぴょんぴょんスキップしていると、その子はパッと後ろを振り返って、みんなに向かって「ねぇ、早くー!」と呼びかけるのです。
その転身の速さには、さすがに私も可笑しくて思わず笑ってしまいましたが、ともかくそのときのその子の「足が痛い」という訴えは「足が痛い」という意味では無かったことは確かです。
人間というのは、要求と表現がしばしばズレるものです。
好きな子に意地悪したり、甘い物を食べすぎたり、急に大声で怒鳴ったり、他人の心配ばかりしたり…。
そんな身振りは、子どもだけでなく大人であってもよくあることでしょう。
そういう身振りは本人も無自覚的ですから、その表現がいったい何の要求の発露であるのか、当人ですらまったく分かっていないこともあって、それがまたいろんなゴタゴタを引き起こす原因であったりもします。
そんなときについ周りの人間も、表現だけを見て要求を無視してしまったり、要求だけを捉えて表現を軽視してしまったり、なかなか良い形で受け答えができなかったりすることがあるのです。
でもコミュニケーションにおいてはそのどちらのレイヤーも大切なので、「表現に寄り添いながら、要求に応えてあげる」という、そんな身振りが求められるのです。
どちらのレイヤーも丁寧に拾っていくというのは、なかなか難しく大変なことではありますが、でもそれができるようになってくると、手当てや仲裁といった他人に対するケアが、格段にスッと通りやすくなってきます。
人の言葉や身振りを丁寧に拾っていく練習を始めてみると、いかに自分がいろんなことを無視して拾ってこなかったかに気づいて愕然としますが、まあそれはそれです。
丁寧に拾う練習は、人間関係のキメを細かくしていきます。オススメですよ。