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明日の空 vol.2

第二章「出会い」

 屋上に上がり空に向かって大きな声で叫んだ!!
真夜中にマンションの屋上から…かなり非常識な行動だとは思ったが、そんなことは私には関係なかった。
 直接彼に言えなかった今までの彼との思いを…悲しみや怒りを…色々と溜まっていた不満を全て吐いた。

そして、ここから飛び降りようと思った。けれど、意外と不思議なものですべてを吐いたらスッキリしてしまった。心の中のモヤモヤが驚くほどスッキリなくなったので、あいつの為にここから落ちることが馬鹿らしくなった。

「ははっ。あはははははは…」
あまりにスッキリしすぎて逆に可笑しくなって来て笑いが込み上げてきた。すると、
「あれだけ叫んだ次は、笑ってるよ…。」と、私の後ろからそんな声が聞こえた。
 声のしている方に目を向けると、女の人が座っていた。
「呑む?」というとその彼女はビールを私に差し出してきた。
「あっ!いただきます。」見知らぬ女性から差し出されたビール。普段なら呑むのをためらうが、生温かい冬の日、私はコートを着て暑かったこともあり、またもうどうでも良くなっていたのでビールを一気に飲み干した。
「いい飲みっぷりだねぇ…。」そう彼女は言うと、バツが悪そうにこう言った。
「ごめんね。聞くつもりはなかったんだけど…振られたの?」
 私は、彼女の言葉を聞いたと同時にぼろぼろと大粒の涙をこぼし子供のように泣きじゃくった。泣いたのなんて久々だ…。しかも、知らない人の前で、人前だからと気にする余裕もなく泣いた。
 彼女は、オロオロしながらも黙ってビールを飲みながら私の頭をポンポンたたき、泣き止むまでそばに居てくれた。
 私は、なぜか初対面の彼女に今日起こった出来事や彼について色々と話をした。いきなりこんな事を話すのは自分でもおかしいことだと頭の片隅にはあるもののなぜか彼女には話してもいいそう思った。
 しばらく話をして私が大分落ち着いてきた時…
「そのコートかわいいね。」と、彼女は私を指して言った。
「あげるよ。」私はコートを脱いで彼女へ渡した。
「えっ!こんなに高価なものもらえないよ!」という彼女に私は、「私よりも貴方の方が、似合いそうだしもともと赤好きじゃないの。」というと、じゃ遠慮なくと言ってコートを羽織った。

赤色は彼が好きだった色…いつもの私なら勧められても自分の気に入ったものでなくては買わないが、親に勧められて買ったのには、少しでも彼に好かれようという思いからだった。

でも、もう要らない。

きっと彼には、赤色がよく似合う素敵な彼女がすぐに出来るであろう…。そう思うとまた涙ぐみ目がウルウルしてきた。そんな様子を知ってか知らずか、彼女は「ほら、上を見て星がきれいでしょ。」そう私にいった。
 冬だし、真夜中とうこともあって、さっきよりよりいっそうと星が綺麗にみえた。
「ここへきて空をみるとね、辛いことも嫌なことも全部どうでもよくなっちゃうの。考えるのがバカらしくなるんだ。」と彼女はわたしに言った。

たしかに、ここで叫んで散々泣いて、空を見上げ不思議と辛い事がどうでも良くなった。
私はしばらくして屋上で彼女に手を振り家路についた。

―――――そう、それが彼女との出会いだった。

次号へ続く…




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