ドラマ・映画感想文(02)『あたりのキッチン!』
放送クール:2023年10~12月期
制作局:東海テレビ(フジテレビ系列)
渡部篤郎さん目当てで観始めたドラマだったが、とてもいい内容だった。
コミュ障の女子大生が料理を通じて成長する、素朴な内容。ゆったりしたテンポ。それでも見所が多く、作品なりの主張も伝わってきた。
実直でまっすぐな作品の姿勢は、朝ドラそのもの。悪人が一人も出てこないというのも含めて。昨今流行りのドラマづくりとは真逆のテイストだと思うが、いいものはいい。
特徴的だと思うのは、キャストの少なさ。メインと呼べるのは3~4人で、他には時々出る人が2人。基本的に以上の登場人物たちだけで進行する。
いや、少ないと言ったが、むしろ他のドラマが多いだけなのかもしれない。色んな登場人物が盛沢山。話の筋よりキャラをウリにするような作品が趨勢を誇るなか、そういう意味でも昨今の流行りの逆をいくドラマだ。人の感情や成長を丁寧に描きたいなら、これくらいでちょうどいいのかもしれない。
穏やかな時間が流れるドラマの奥に、何か、近年のドラマ業界に向けたアンチテーゼのような制作信念が透けて見える気がした。
ところで、渡部篤郎さんはさすがだった。こんなに普通の定食屋の店主の役をやるのが新鮮だったが、優しいまなざし、温かい言葉遣い。何度琴線に触れたことか。最終回の「食べましょう。…ねぇ。」が白眉だった。
さらに、主演の桜田ひよりさんが上手すぎる。若いのに本当に凄い。ドギマギ・ウジウジ・弱気・口下手な演技がしっくりきていて、挙動不審な動きも含めて役作りが完璧。もともとそういうキャラが得意な人なのかと思って別の作品を少し観たが、全く違った。雰囲気も表情も。
そして、声。今回は上ずりまくった弱々しい声で全編通していたが、過去作とは明らかに違う声。
折しも、このnoteの別シリーズで、松雪泰子さんの声の使い分けについて色々と書いていて、役柄に合わせた声づくりをする俳優は少ないと私見を述べていたが、この作品における桜田ひよりさんはまさに、声づくりをしっかり意識している。ベテラン俳優でもあまり見当たらない中、まだ若いのに本当に立派だ。おまけに最終回の泣きの演技も非の打ちどころがなかった。失礼ながらこの作品で初めて知ったが、今後注目したい。
あとは、第10話・最終話で出てきた子役のイケメン男の子。彼は一体何者だったのだろう。普通に上手だった。