見出し画像

無濾過生原酒を熱燗にしても爆発しないので安心してください

 酒場から“冷や”が消えた。
「日本酒、“冷や”で」と注文しても、当然のように冷蔵酒が姿を現す。腹が冷えて仕方がない。
 蛇足だが、本来「冷や」は常温酒を指し、冷蔵酒は「冷酒」と呼び分ける。

 要冷蔵の生酒ブームも手伝い、「酒は冷蔵されているものが上等」と捉える消費者が増えた。となれば、飲食店も酒屋も、冷蔵酒をメインに扱うのは当然の帰結である。しかし日本酒は元来常温で保存し、そのまま、または温めて飲むものだ。

 昨今の熱燗事情についても物申したい。
 店で酒の品書きを見ると、熱燗には専用の酒があてがわれていることが多い。
「料理に合わせて熱燗向きの酒を厳選している」とのことだが、指定外の酒、それも無濾過生原酒を温めて飲みたい時もある。
 勇気を出して注文するも、「生酒は熱燗できませんよ!」と嗜められることがしばしば。核爆発でも起きると言うのか。

 私は生酒も火入れ酒も、特殊なものを除いて常温で放置する。気温が35℃を超える真夏であってもだ。もちろん紙袋で包み、日光やLEDの照射は防ぐ。
 常温下では熟成が早まるため、酒が生きていることをより強く実感できる。瓶詰めされてすぐは自己主張が激しく、腕白な子供のよう。日が経つにつれて丸くなり、次第に貫禄を見せ始める。
 ただし、熟成と劣化は紙一重だ。常温に耐えられない酒もある。酒の常温放置を万人に勧めることはしない。だが醸造工程を端折ることなく、丁寧に醸された酒は、常温で保存した方が味乗りすると感じている。

 そもそも日本酒は熟成を楽しむものである。冬に一年分の酒を仕込む「寒造り」では、春にかけては「しぼりたて」を、秋には「ひやおろし」を出荷する。同じ酒でもここまで変わるものかと、飲み比べてはうっとりする。
 しかし近年は、空調設備を整えて、季節を問わず酒造りを可能とする「四季醸造」が増えている。
 先日、四季醸造を行う代表的な酒蔵が、SDGsを掲げているのを見かけた。季節の移ろいを拒みながら、何を持続させると言うのだろう。

 この文を書いている机の横には、紙袋に包まれた4号瓶が数本と、酒器セットが常備されている。一日の仕事が片付いたら、座ったまま手を伸ばし、お気に入りのお猪口でちびちびやる。肴は呑みながら考える。
 酒も人間も、あるがままがいい。

#未来のためにできること

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?