「岸田総理 = 学歴厨か?」について
雑誌「選択」3月号の連載記事「政界スキャン」によれば、今回の日銀トップ3人の学力偏差値は史上最高レベルなのだそうである。
次期総裁となる植田和男は、東大数学科卒の経済学者で東大名誉教授。副総裁となる氷見野良三は、高校時代から全国模試上位の常連で「富山に氷見野あり」と言われていた秀才で、東大法学部から大蔵省に入省した元金融庁長官。もう1人の副総裁である内田眞一も、東大法学部卒で日銀きっての能吏かつ勉強家だったとか。
岸田内閣に東大出身者が多いというのは、前々から指摘されている話である。不祥事で辞めた法務大臣も東大卒だし、後任大臣も同じく東大卒。どうも岸田総理は東大出身者が好きなのか、あるいはよほどに東大出身者の能力を買っているのか。
岸田総理自身は、東大合格者数で毎年トップを占める開成出身であるが、東大受験に3回も失敗して早稲田に入った経歴を持つ。この当時を振り返って、「人生最大の挫折」と言っているそうであるが、齢65歳を過ぎてもまだ、大学受験での失敗を引きずっているのであろうか。
銀行時代、開成 → 東大という経歴の同期に聞いた話であるが、開成くらいのトップ進学校になると、東大とか医学部に進学するのが「普通」なので、それ以外の大学に入学しようものなら、「何か特別なココロザシでもあるのかも」と却って深読みされたりして何かと面倒臭いものらしい。東大に行かない(行けない)方が珍種扱いされてしまうのだ。僕のような、地方の公立校(それも非進学校)から非東大というコースを辿った一般人には到底理解できない世界の話である。
「学歴厨」というネット用語がある。幾つになっても学歴、すなわち出身大学にこだわり、学歴に直接関係ない場面でも学歴の話を出し、学歴が人としての価値を示す物差しであるかのように考えて、自分より学歴が低い、出身校のレベルが低い人をバカにするような人のことを意味する。
岸田総理が、いい年をして、いまだ「学歴厨」なのかどうかは知らないが、若い頃の東大受験での挫折経験がよほどに堪えたのは間違いない。開成みたいな超進学校に身を置きながら東大受験に3回もしくじった辛さはご本人にしか理解できないだろう。「財務省のポチ」と陰口を叩かれているが、彼のように東大に入りたくても入れなかった人間にとって、東大出身者の巣窟みたいな財務省(旧大蔵省)の高級官僚におだてられて悪い気がしないのは当然であろう。半世紀近く経って、ようやく青春時代の仇を取ったような気分になったに違いない。
東大出身の学校秀才を何となく信奉してしまうのは、政界や官界だけではない。大企業も似たようなものである。僕がいた銀行もバブル期以降はそうでもなかったが(大量採用の員数合わせをするために、贅沢を言っていられなくなったので)、それ以前はいわゆる有名大学出身者ばかりであった。
でも、その結果どうなったかは、今の日本の金融業界を眺めてみればよくわかる。銀行に限らず、日本の伝統的大企業があまりパッとしないのも同様である。決められたことを決められた手順でミスをせずに処理すれば済むような仕事は、学校秀才の最も得意とする領域であるが、そういう能力ならば人間はAIには絶対に勝てないだろう。
そんなだから、「言うべきことを言わず、言われたことしかしない」などと言われてしまうのだ。
学歴重視に関する同じような間違いはどこの国でもあるみたいで、実力主義的なイメージのある米国でも実際には学歴はかなり重視される。一説によれば、日本以上の超学歴社会だという話もある。そう言えば、映画「マイインターン」で、投資家が外部からCEOを招聘する意向であるのに対して、ヒロインが「私がハーバード出身じゃないからだめなの?」と反論するシーンがあった。
デイヴィッド・ハルバースタム『ベスト・アンド・ブライテスト』を読むと、ケネディとその後任のジョンソン政権において、「最良の、最も聡明なはずの人々」が、いかに多くの政策的な失敗を犯して、米国をベトナム戦争の泥沼に引きずりこんでいったかが描かれている。
学校秀才を全否定するつもりはない。情報処理能力とか記憶力に関して普通の人たちよりも優秀であることは間違いないだろう。でも、今や機械で代替できてしまいそうな能力の優劣だけにフォーカスするのはバランスを欠いていると思うし、ましてや18歳とか19歳とかの時点のペーパーテストの成績の良し悪しをその後も引きずるのは馬鹿げている。フルマラソンにたとえれば、最初の10キロのタイムみたいなものである。そこから先の方が長いのである。
日銀の新総裁は東大名誉教授だそうであるが、岸田総理の東大信仰もほどほどにしておいた方が良いと思う。日銀も財務省(旧大蔵省)も、非東大出身者を探した方が早いくらいに上から下まで東大出身者ばかりであるが、この30年余りというもの、日本経済が鳴かず飛ばずだったのは厳然たる事実だからである。
今度の日銀総裁は著名な経済学者であるが、エリザベス女王は、リーマンショックの直後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の経済学者たちに、「どうして誰も危機が来るのをわからなかったの?」と言い放ったそうである。LSEはノーベル経済学賞受賞者も多く輩出している英国を代表する名門校である。ちなみに、ザ・ローリングストーンズのミック・ジャガーが在籍していたことでも知られている。
経済学者というものも、それくらいに頼りにならないのだ。経済学の世界では10人いれば10通りの意見が出ると言われるくらいに、学者によって言うことがバラバラなのである。もっともらしく数学を駆使してはいるが、所詮はエセ科学に過ぎないと言われたりもする。
信憑性に関しては、占い師のご宣託と大差ないくらいに考えておいた方が良いのかもしれない。
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