「浦和レッズ」について④
昨日、浦和レッズが「アジア・チャンピオンズリーグ2022(ACL)」で3度目の優勝を果たした。
僕は知らなかったのだが、現行のシステムに変更されてから、通算3度優勝したクラブは他にはないのだそうで、これが史上初の快挙とのことである。
いずれにせよ、おめでたい。DAZNで見る「埼玉スタジアム」は満員だったし、スタンドは赤ユニを着たファン・サポーターで満ち満ちていた。コレオもいつも以上に気合が入っていたように思う。昨日の夜の浦和駅近くの飲み屋(「酒蔵 力」とか)は、きっと祝杯をあげるファン・サポでどこも満杯だったであろう。まあ、レッズの試合がある日は、浦和周辺の飲み屋はファン・サポでいつも一杯なのであるが。
そもそも、今回の22年シーズンのACLに浦和レッズが出場できたのは、21年度の天皇杯で優勝できたからであった。21年度のJリーグで浦和レッズは6位だったので、本来ならばACL参加資格はない。日本の出場枠はプレイオフまで含めて3枠だからである。天皇杯の優勝においては、21年シーズンでクラブを去った宇賀神が準決勝、槙野が決勝でそれぞれ劇的な決勝点をあげたことが記憶に残っている。つまりは、21年度の天皇杯から起算すれば、およそ2年がかりでやっとこさ辿り着いた決勝戦ということになる。
Jリーグではなかなか優勝できないものの、ACLではなぜか強いというのも、本当に不思議な話である。日経の記事にもあるように、<ACLとJリーグでは戦いのタイプが違う。リーグ戦では負けないことを優先するチームもいる。ACLでは強力なチームが勝ちにこだわってぶつかってくる。同じ戦い方では結果を出し続けるのは簡単でない>ということなのか。
カタールW杯でも明らかになったことだが、ボール支配率は勝敗結果と必ずしもリンクしない。
今回のACL決勝においても、浦和レッズとアルヒラルのボール支配率は、だいたい3対7であったが、スタッツ以上に相手にボールを持たれている印象であった。選手の個の技量に関しても、相手の方がかなり上回る感じであった。浦和レッズとしては、無理してボールを支配しようとせず、頭を切り替えて弱者なりの戦い方に徹していたのが良かったのかもしれない。
国内では圧倒的に攻撃力があってボールも支配できる、川崎フロンターレ、横浜FマリノスのようなクラブがACLで結果を残せなかったのは、もしかすると、国内と同じような戦い方にこだわり過ぎた可能性はある。
ボールを支配しつつ、パス回しをしながら、じっくりと攻める(=遅攻スタイル)と、ボールを奪取したら、手数をかけずにフィニッシュまで持っていく(=堅守速攻スタイル)のどちらが優れているかというのは、長年の宗教論争みたいなところがあるが、敵味方双方の戦力の優劣、選手の得手不得手等を見きわめつつ、状況に応じて両方を使い分けることができるのが理想なのであろう。
いずれにせよ、グループリーグから決勝までの長丁場を、国内のリーグ戦と並行して戦い続けることは容易ではない。まずは選手層にかなり厚みがないことには、どうしようもない。ターンオーバー制でスタメンを適宜入れ替える必要があるからである。さらに中東諸国とか、一時期までの中国のように、資本力にモノを言わせてワールドクラスの選手を買い漁るライバルに対抗するには、こちらも戦力強化を図らないことには限界がある。つまり、いずれに関しても「先立つもの」が必要という身も蓋もない結論に帰着する。
つまり、浦和レッズをはじめとする国内クラブが、今後もACLで結果を残し続けようと思えば、やはり資本力の増強、世界中からおカネが集まって来る仕組みを構築することが急務となる。
前にも書いたが、およそ30年ほど前に発足した日本の「Jリーグ」と、イングランドの「プレミアリーグ」は、発足当初こそ規模的に大差なかったのが、現在では比較するのもナンセンスなほどに格差が生じてしまっている。これはひとえにプロサッカーを興行として儲かるビジネスに仕立て上げていくビジネスセンスの差、成長戦略の差ということになる。
「プレミアリーグ」の成長戦略の仕組みは、具体的には、①魅力・ポテンシャルのある選手(おカネを払ってでもファンが見たいと思うような選手)を世界中から集めて、興行としての価値の最大化を図る。
②華のあるスター選手を見たいと思うファンによってスタジアムが常に満員になれば入場料やグッズ販売等で売上増大が図れるのみならず、スポンサー収入や放映権収入が期待できる。また、それらを原資にさらなるスター選手獲得が可能となれば、興行価値はますます増大する。
③スター選手を擁するビッグクラブがリーグ全体の価値の牽引役を果たすことで、結果的に他の中小クラブも潤う。
したがって、野々村芳和・Jリーグチェアマンが言うように、<「Jリーグをヨーロッパでマネタイズすることを今考えるかというと、そうは思わない。まずは東南アジアも含めた近いエリアで、子どもたちや選手に『行きたい』『見たい』と思ってもらえる魅力的なリーグになること。アジアでどんな存在になれるかが一番大事」>という構想は正しいと思う。とりあえずは、近場から攻めていくしかない。
問題は、具体的にどうやって取り組んでいくかということであるが、J1でも18クラブある全部を均等に底上げしていこうというのは現実的には難しい。浦和レッズも含めた都市部のビッグクラブと呼ばれるクラブチームがまずは資本力や戦力の充実を図り、リーグ全体を牽引できるようになれば、結果的にリーグ全体のパイが大きくなり、地方の中小クラブも潤うことになる。このことはプレミアリーグが実証済みである。
資本力の増強のためには、あまり国内にこだわらず、海外に広く門戸を開き、積極的な資本提携を検討するのが現実的であろう。1つのモデルケースは、マンチェスター・シティFCを運営するシティ・フットボール・グループ(CFG)と資本提携を行なった横浜Fマリノスである。アジア諸国の有力企業とのスポンサー契約などは、浦和レッズが優勝した今のタイミングを逃さずに積極的に取り組むべきであろう。場合によっては、投資ファンドからの出資、その延長線上としての株式上場(IPO)も視野に入れても良い。
国際的な他流試合で今後も安定して高い実績を残そうと思えば、国内だけを見ていてはダメであるし、気合と根性だけではいずれ限界となる。むしろ、これ以上の差をつけられる前に、いろいろと種を蒔いておかないと、いずれ取り返しがつかないことになりかねない。
浦和レッズが3度目のACL優勝を成し遂げて、Jリーグに世界の目が向けられている今こそ、もしかしたら最後のチャンスなのかもしれない。