「家庭医」について
僕は知らなかったのだが、「家庭医」という言葉は、厚労省では禁句なのだそうである。
厚労省の背景には日本医師会がある。日本医師会は開業医の既得権益を守るための組織である。日本医師会が、「家庭医」を警戒するのは、日経の記事にもあるとおり、<全国の開業医の利害を重くみる日医が家庭医資格の創設を警戒するのは、国民(患者)が家庭医を1人選んで登録し、ほかの医師にかかるのを制限する英国のやり方につながることだろう。皆保険制度の日本にあって、健康保険証があれば原則どの病院・診療所にかかってもよい「フリーアクセス」が覆されるのをおそれているのだ。>ということになる。
英国では、「ジェネラル・プラクティショナー(GP)」という制度があって、<同国に暮らす人は移民を含めて1人のGPに登録し、心身に不調を感じたときはそのGPにかかるのを原則とする。患者の大半はGPの診療で完結するが、手術が必要になるなど難しい病だとGPが診断すれば、患者を病院の専門医につなぐのも大切な役割だ。>とあるように、「GP」がいわば医療の「ゲートキーパー」の役割を果たしている。
厚労省が推し進めようとしている「かかりつけ医」は、単なる便宜的な名称であるが、「GP」の方は、「産婦人科」とか「小児科」と同様に、医師免許取得後に家庭医研修を受けて資格試験に合格する必要がある。
また、「GP」は「1対1」の登録制であるので、何人もの医師を適当に選択することができない。<ほかの医師にかかるのを制限する英国のやり方につながることだろう。皆保険制度の日本にあって、健康保険証があれば原則どの病院・診療所にかかってもよい「フリーアクセス」が覆されるのをおそれているのだ。>とあるように、開業医の立場としては、「家庭医」が制度化されることで、商売がやりにくくなることを懸念しているのだ。
国民皆保険制度に基づく「フリーアクセス」自体は、世界に誇れる制度であるとは思うものの、風邪をひいたくらいで大学病院に行こうとする人を遮断することができない。「餅は餅屋」と言うように、それぞれ果たすべき役割というものがある。医療も社会インフラの1つであり、医療従事者の対応能力は有限である。医療の無駄遣いは排除しなければならない。
特定機能病院等に紹介状なしで受診しようとすると、初診料・再診料とも特別な上乗せ料金が発生する(初診5,000円、再診2,500円)。これは、医療の無駄遣いを制限するための措置の一例であろう。
一方で、登録した「GP」以外の他の医師にかかるのを制限する英国のようなやり方も何やら不安である。「GP」あるいは「家庭医」がポンコツだった場合、誰が責任を負ってくれるのかという話になる。予約を入れても、なかなか予約が入らないとか、専門医を紹介してもらおうと思っても、なかなか迅速に対応してくれないとかいった状況は容易に想定されるし、英国でも実際に似たような事例はよくあると耳にする。
そういうことを考えると、「フリーアクセス」をまったく否定するのではなく、英国みたいな登録制度に基づく厳格なゲートキーパー機能ではなく、経済的な誘導策(登録した医療機関を利用すれば自己負担を減らす、紹介状なしで大病院に行った場合の追加負担を大幅に引き上げる等)との併せ技で、緩やかなゲートキーパー機能の実効性を上げていくことで、結果として社会全体として医療の無駄遣いが減るようなやり方を選択することが現実的なのであろう。
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