2022年W杯について②
今回のW杯の本大会が始まる前、日本代表チームに関して、とてもネガティブなコメントを書いた。
森保監督に対しても、「頭が固い」「頑固」「選手を固定化し、戦術も固定化する」とか、「ワンパターン」「旧帝国陸軍みたい」とか、いま読み返してみても、随分なディスりようである。
まあ、僕だけでなく、世間全般でも、当時は「森保でホントに大丈夫か?」的な論調が主流であったような気がする。
ところが、蓋を開けてみたら、優勝候補の一角を占めるドイツ、スペインを破り、グループリーグを1位で通過という快挙を成し遂げてしまった。そうなると、森保監督に関しても、先日までの論調はどこへやら。今や、「稀代の名将」的な持ち上げようである。それでも、コスタリカ戦に負けた時には、「やっぱり、森保じゃダメだ」といった感じに一時的にはなったりしたが、スペインに勝ったら、また「やっぱり、森保監督はすごい」に豹変する。
けなしたり、持ち上げたりと、本当に世間というものは、いい加減なものだと思う。
今は日本中、1億総「躁状態」というか、お祭り騒ぎではあるものの、少し冷静になってグループリーグの3試合を自分なりに振り返ってみたい。
ドイツ、スペインに勝ったのが実力で、コスタリカに負けたのは不覚を取っただけだというようなコメントをしている人がいるが、それは正しくない。
そうではなくて、ドイツ、スペインに勝ったのも、コスタリカに負けたのも、たぶんそれが日本代表の現在の実力を示していると考えるべきなのだろう。これら3つの試合を総合することで、日本代表の強みと弱みが浮き彫りになったのではないかと思う。
ドイツ戦のボール支配率は、ドイツ65%、日本24%。スペイン戦の方は、スペイン82%、日本18%だそうである。ボール支配率が70%を超えると、一方的な試合展開にしか見えないと言われる。実際のところ、どちらの試合も、特に前半に関しては、日本は防戦一方であり、サンドバックのように殴られ放題、もうボコボコにされている感じであった。
ドイツもスペインも明らかに日本よりも格上のチームなので、前半で勝負を決めてしまいたいところだったのだろう。前半が終わったところで1点しか取れないというのは、彼らとしては明らかに不満足な結果である。だから、後半になって、さらに嵩にかかって前がかりで攻め倒してくることになる。そうなると、徐々に相手のラインが間延びして後方にスペースが空いてくるようになるし、そうなれば日本がカウンターを仕掛ける余地も出てくる。
オープンな展開になったところでの、数少ないチャンスを活かしたカウンター攻撃による勝利という点で、ドイツ戦もスペイン戦もパターン的には同じということになるのだろう。
でも、格上相手に弱者が勝負しようと思えば、こういうやり方しかない。ドイツやスペイン相手に日本がボール支配率で上回ろうと思ったところで、絶対に無理に決まっているからである。
で、コスタリカ戦で日本が負けたのは、単純にドイツ戦やスペイン戦の裏返しである。
日本代表チームは、自陣前をがっちりと固めてしまった相手方の守備を引き剝がして点を取れるほどの戦術面での「引き出し」は持っていないし、高さや決定力を持った圧倒的な点取り屋がいて個人技で解決してくれるわけでもない。攻めあぐねているうちに、逆にミスからカウンターを食らってしまったというだけの話である。
コスタリカは14年のW杯でベスト8になった実力を有しており、決して弱者ではないと思うのだが、日本の不得手なところを巧みに見抜き、したたかで嫌らしい戦法を選択したということであろう。
ということなので、ドイツ、スペインに勝ったのも実力というのであれば、コスタリカに負けたのも実力である。これら3戦を通じて、日本代表の現在の立ち位置、強みも弱みも明らかになったと考えるべきなのであろう。
圧倒的にボールを支配していても、勝てるとは限らないのがサッカーというゲームの面白さであるが、カウンター狙いで自陣に閉じこもった相手の「閂」(カテナチオ)をこじ開けることも可能となるような戦術的なオプションを身につけて、ボールを持っても持たなくても戦えるようにならなければ、たぶんベスト8を達成するのは難しいのではないだろうか。
ところで、スペインとしては、グループリーグ2位通過というのは、「結果オーライ」ということだったのかもしれない。同時刻に行われていたドイツ-コスタリカ戦がシーソーゲームだったし、コスタリカと日本が勝った場合、ドイツ、スペインがグループリーグ敗退の可能性もあったわけだから、わざと日本に負けるような際どいリスクは冒さなかったと思うのだが、結果的に決勝トーナメントの緒戦の相手がクロアチアではなくて、モロッコになったからである。
一方、日本は決勝トーナメントの緒戦の相手は前回大会準優勝国のクロアチアであるし、仮にその次に運よく進めたとしても、次は優勝候補筆頭のブラジルに当たることになる。
クロアチアが「東欧のブラジル」と呼ばれているのは伊達ではない。現在のメンバーで世界的なスーパースターはモドリッチくらいで、ドイツ、スペインに比べたら華に欠けるが、そのモドリッチを中心に、攻めても守っても、非常にしぶといサッカーをする。
ブラジルは、あのサッカー王国ブラジルである。昔も今も人材の宝庫であり、今大会のチームは決してネイマールのワンマンチームではない。
まあ、そういう意味では、2大会連続でベスト16に進めて良かったねということで終わる大会になりそうな雰囲気が濃厚であると思うのだが、いかがなものであろう。
いずれにせよ、ベスト8の壁というのは、なかなかに手強いと思うし、組み合わせの運不運も含めて味方につける必要があるのだろう。
あと、さんざんディスっていた森保監督について少しコメントすると、今大会が始まる前までは、選手交代枠を使うのが苦手な監督だと思っていた。実際、5人の選手交代枠を使い切れない試合(予選とか親善試合)もあったはずである。
選手交代枠は従来は3人だったものが、コロナ渦の影響もあり、現在は5人まで交代可能なルールに変更されている。5人というのは、フィールドプレーヤーの半分を入れ替え可能であることを意味する。
サッカーのように体力の消耗の激しいスポーツで、3人しか交代できないのと、5人まで交代できるのとでは、その違いはすごく大きい。実際のところ、交代枠をうまく使えるかどうかは、監督の腕の見せどころのはずである。それなのに交代枠をうまく使いこなせないというのでは、「森保でホントに大丈夫か?」的な監督批判が起きたとしても仕方がなかったわけである。
ところが、どうであろう。今大会では、少なくともドイツ戦、スペイン戦に関しては、選手交代の采配において見事な手腕を発揮した。人が変わったのか、急に覚醒したのか。
とにかく、謎である。
防戦一方で、頭のネジがぶっ飛んで、ヤケクソで人選したら、たまたまうまくハマった可能性もあるような気がするが、ひと皮剥けたのであれば結構なことである。
いずれにせよ、次回のクロアチア戦に注目したいと思う。