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バンコクの「新中央駅」について

タイの首都バンコクは、BTS(高架鉄道)やMRT(地下鉄)が走っており、市内の移動の利便性という点では、日本の都市部と比べてもあまり遜色はない。タクシーも拾いやすいし、料金は日本よりも割安感がある。複数名で電車に乗るくらいならば、タクシーに乗った方が安いくらいである。

ところが、バンコクを一歩出て、タイ国内の他の都市に移動しようとすると、なかなかタイヘンなようである。タイにもSRT(タイ国鉄)があるが、そもそも本数が多くないし、日本の鉄道みたいに正確ではない。都市部を除けば電化しておらず、複線化していないエリアも多い。日本人が利用するのはかなりハードルが高そうである。タイに住む知人などの話を聞いても、タイの国土は日本の約1.5倍であるにも拘わらず、国内の移動手段は飛行機かクルマになるのだという。

バンコクの中央駅は、長らく「フアランポーン駅」であった。MRT駅とも接続している。駅舎は天井が高くて欧風である。「ハリーポッター」の映画に登場しそうな感じであるが、さもありなん。ドイツのフランクフルト駅をモデルにして1916年に竣工したとのことである。

今年の1月19日から、「クルンテープ・アピワット中央駅(バンスー中央駅)」が本格的に稼働し、新たなターミナル駅としての運用がスタートした。新しいターミナル駅は、現在の駅よりも北方面に位置し、こちらもMRT駅と接続している。バンコクの2つある空港のうち、「ドンムアン空港」からSRTダークレッドラインが乗り入れている他、いずれはもう1つの「スワンナプーム空港」とも接続される計画であるという。

国土が広いだけに「伸びしろ」はたくさんあるし、投資次第では沿線の都市化も急速に進むのだろうが、そのためには、まずは高速鉄道の整備、複線化、電化等が急務なのであろう。日本人の感覚からすると、朝晩1本くらいしか発着しない、それも慢性的に遅れるような鉄道を利用する気にはならない。

<インフラ整備に当たっては日本の官民が大きな役割を果たした。鉄道網の近代化を目指すタイ政府が日本に支援を要請。日本政府は「インフラ輸出の促進と二国間関係の緊密化に貢献することが期待される」として、09年から3回にわたり国際協力機構(JICA)を通じた総額約2680億円の借款の供与を決定した。>とあるが、たぶん日本の鉄道に関するノウハウというのは、ハード、つまりインフラ整備や鉄道車両に関する技術の提供だけではなくて、ソフト、すなわち運行管理に関するきめ細かいノウハウまで含めてセットで提供しないと役に立たないのであろう。

さらに、<日本側とタイ側は22年末に駅周辺開発に関する覚書を更新した際に、協力の強化を確認。URが開発の方向性と先導事業を立案することで合意した。URは東京・大手町の再開発の事業スキームの構築や、大阪・梅田駅前の開発で全体の調整役を手掛けた実績があるが、海外での手腕は未知数だ。>とあるが、鉄道を走らせた後の、沿線の住宅地の開発、ターミナル周辺の商業施設の開発といったビジネス展開というのは、日本人のきわめて得意な領域である。

日本国内で散々やり尽くしたことの、海外での「横展開」ということを考えるならば、いくらでも「真っ白いキャンバス」が転がっていそうである。ただし、繰り返しになるが、ハードだけではダメである。ソフトも含めたセットでなければ、あまり意味がない。

言い換えれば、小林一三が阪急電鉄(前身は箕面有馬電気軌道)の創業時からやって来たのと同じようなことをタイをはじめとしたアジア諸国で再現性をもって取り組む事業家がいたら面白いのではないかと思う。その担い手は、必ずしも日本人でなくても構わない。部分的に日本人が関与しても構わないし、オール現地人であっても、それでも構わない。

「日本的経営」は、もう「オワコン」のように考えられるようになってはいるものの、かつて高度成長期の日本が米国の後を追いかけたように、まだまだ発展段階にあるアジア諸国には日本から輸出可能なものはたくさんありそうな気がする。日本からの輸出品というと、工業製品のようなハードにばかり着目されるが、今後はソフト、つまりノウハウやビジネスモデルで他国に転用できるものにもっと注目されても良いのではないだろうか。

鉄道のハードの部分、鉄道車両とか、土木や建物の建設工事とか、電気設備とかに関しては、ライバルがたくさんいる。価格競争になったら負けるかもしれない。でも、ソフトの部分、運行ノウハウもセットでということになれば、日本のライバルはいないかもしれない。


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