How to study ミュージック『テレパシーってあるんやね』編
こんにちは。
硫化カピバラです。
今回は少し趣向を変えて
僕が実際に体験した
ちょっとすごい体験について書きます。
僕は吹奏楽部には所属していませんでした。
小学6年生の時に地元のジュニアオーケストラに
入団したことと、
中学校の吹奏楽部で
露骨にひがまれていじめられたことに起因します。
ですので皆で血の滲むような(時に非効率的な)努力をして
感動の涙に濡れたコンクールなどの経験は
全くありません。
サイコな青春嫌悪症のカピバラ的には
鳥肌モノですね。
否定はしませんが自分はそれを経験しなかったことを
全く恥じていませんし、悔いてもいません。
話はそれましたが、
要するに僕の合奏体験は吹奏楽によるものは
大学在学時のものしかなく、
基本的にはオーケストラでのものなのです。
オーケストラと吹奏楽では
サウンド感も奏者の体感も全く異なります。
パワフルで濃厚な印象の吹奏楽に対し、
オーケストラは豪華ではあるものの
ある種のお上品さがあります。
各楽器の登場頻度についても
吹奏楽の方が圧倒的に忙しく、
役割の兼業も多いです。
対してオーケストラは登場機会に偏りがあり、
限られているからこそ各々の役割に対する
意識は吹奏楽よりもより強い気がします。
(強いというより、鋭い、の方が適切かもしれません)
各楽器の役割やキャラクター性については
前の記事で記述しましたね。
その記事で
金管楽器は神や王などの権威、
銃器や機械、人為的なものを表すと
書いていた気がします。
ですのでトランペットは
役割のシーン以外では
単調なハーモニー、ティンパニの補強、
あとはお休みです。
具体例を挙げると、
以前取り上げたフィンランディアでは
冒頭のファンファーレ以降は
テンポアップ直前の連符までお休みだったと思います。
他にもくるみ割り人形では序曲は丸々お休みで
行進曲で初めて出番が訪れます。
金平糖の踊りもお休みです。
トレパークは打楽器とほとんど同じことをやっています。
花のワルツも練習番号3、4つ分連続でお休みなんて
ザラでした。
反面ベートーヴェンは(時代や曲にもよりますが)
激しめがお好きなのでトランペットを乱用します。
ファンファーレからハーモニーから
ティンパニ補助と、ずっと出ずっぱりになります。
ベートーヴェンは本気で吹きすぎると死にます。
カピバラからの苦笑い助言です。
トランペットが如何に暇な時は暇で
忙しい時は忙しいか、
ふんわりと伝わったでしょうか。
今回お話ししたかった体験は、
どちらかというと忙しい、
ラデツキー行進曲を演奏していたときの出来事です。
皆さんお馴染みのラデツキー行進曲。
名前は知らずとも、聞いたことある方は
多いのではないでしょうか?
様々な演奏会でアンコールとして採用され、
お客様に手拍子で参加いただくスタイルは
定番といえます。
僕の所属していたジュニアオーケストラでも
伝統的にアンコールはラデツキー行進曲でした。
その演奏会はそれまでお世話になっていた
指揮者の先生が退団なさる最後の演奏会でした。
彼が振りたかった曲をふんだんに盛り込んだ
華やかな演奏会は無事にアンコールを迎えます。
エキサイトする奏者と、
それ以上にエキサイトする指揮者の先生。
いつもよりpiu forte で曲は始まりました。
その分弦楽器が演奏するAメロの弱奏が
対照的で楽しかったです。
なおこの間トランペットは最初のファンファーレを
終えたのちはバッキングをしております。
ラデツキー行進曲は比較的コンパクトな曲で、
繰り返しが多めな曲でもあります。
ですので楽譜自体はあまり長くなく、
トランペットパートの場合は大体2ページです。
団員には小学生もそこそこいたので
どこに飛ぶんだよ、ここは繰り返しだよ、
と先生方は念入りにご指導してくださりました。
かくいう僕はすでに中学2,3年生だったので
楽々ですし、良く慣れきった曲でした。
演奏は進み、トリオを超え、ダ・カーポして冒頭の
有名なファンファーレに戻ります。
汗をかきながら指揮者の先生はタクトを振ります。
この時、隣で演奏していた
トランペットの先生の声が聞こえました。
「あいつ、終わろうとしているぞ」
トランペットは楽器を口から離す間も無く
バッキングをしているので、
先生が声を出したはずはありません。
事実先生の方を見ても、口はマウスピースから
離れていません。
ただ先生の目元はニヤリと笑っています。
僕も目で「なんで笑っているんですか?」
「終わろうとしている、ってどういう意味ですか?」
と問いかけました。
すると先生は他のパートに目を移し、
またニヤリと目を細めました。
見てみると、ホルンの先生も
コントラバスの先生もフルートの先生も、
クラリネットの先生もトロンボーンの先生も、
ヴァイオリンの先生方もアイコンタクトをとっています。
また声が聞こえてくるようでした。
「終わるね」
「終わるな、あいつ」
「じゃあ終わらせなきゃ」
各先生方がそれぞれのパートの子達に
目配せします。
そして先生方の言っていることは直感的に
理解できました。
指揮者の先生をみると
完全に興奮して、楽しそうにタクトを振っています。
まるでもうすぐ曲が終わるかのように。」
実際はもう1度か2度
同じような旋律を繰り返すのですが、
彼は1回目が終わる段階で振り終えようとしていたのです。
そんな指示はもちろん出ていません。
指揮者の先生から具体的な
合図があったわけでもありません。
ただ、終わると直感しました。
何より各楽器の先生方が目でそう言っているのです。
そして本当に終わってしまいました、
たっぷりリタルダンドして。
演奏が終わり、一瞬間を置いてから
拍手が鳴りました。
喝采の中指揮者の先生は、
何かに気づいて驚いたような顔をしてから
額に手を当てて笑っていました。
他の先生方も笑って彼を見ていました。
これが僕のちょっとすごい体験です。
よくプロの演奏家は目線一つで
互いの意図を伝えることができるという話を
耳にする気がします。
それを実際に体験したのは初めてで、
今でもこの話は擦っています。
基本的に、非科学的なものは
『信じることで人が救われるならアリ、
実際に存在するかはともかく』
というスタンスな僕ですが、
テレパシーだけは少し本気で信じています。
硫化カピバラ