オリジナル創作「魔王入門」
「人類に絶望するのに特別な体験なんていらない。よく晴れた日曜日に車で街にでかけるだけで十分だ」
車で買い物にでかけた彼女は、戻ってくるなりそういった。なんとも突拍子のない言葉。
「人類に絶望するとどうなるの」
「魔王になるのよ」
これまた突拍子のない言葉だ。
「魔王になるとどうなるの」
「知らないの?」
彼女の眼は怒っている。休日の車に怒っているのだ。
「世界を滅ぼすのよ」
僕にはよく見える。彼女の背後から真っ赤な煙がもうもうと上がって、頭から二本の大きな角が生えて、可愛い八重歯は骨も砕く牙にかわる。
彼女は魔王になってしまうのだ。
だけど
「世界は滅びないよ。勇者が来るから」
「勇者もすぐに人類に絶望するわ。自分が救うべき人間の愚かさがつまった休日の道路を走ればね」
今時の勇者は車で旅をするらしい。
「勇者だって魔王になるわ」
なるほど、万事休すというわけだ。
魔王になった彼女はもう止まらない。
手始めにすべての車とその運転手を滅茶苦茶にするだろう。
そしてすべての道路を掘り返すだろう。
それでも彼女の怒りは止まらない。破壊は止まらない。
人類に絶望しているから。
勇者もいない。彼も魔王になるからだ。
魔王になるのに特別な体験なんていらない。
例えばよく晴れた日曜日に車で街に出るだけ。
人の愚かさを知るのに、それ以上の不幸なんていらないのだ。
人類の愚かさに絶望すれば、我々は魔王になる。
魔王になって、世界を滅ぼすのだ。
「だからね」
魔王になった彼女は言う。
これから世界を滅ぼす彼女は、人間のころとちっとも変わらない愛に溢れた眼で僕を見ながら言う。
「あなたは日曜日に、車になんて乗らないでね」
おどろおどろしいタイトルですが、僕が休日の多すぎる車及びそこから発生するマナー違反祭りにマジギレしてるだけのお話。たくさん集まると「自分だけがよければいい」人間が出てくるの、なんかやだよね。
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