カメムシパニック(実話)
農家の敵、食卓の敵、カメムシ。
奴らは私たちの大切に育てた作物を生育不良に陥れる、人類の脅威なのだ。
それだけではない。
縦横無尽に飛び回り、
「ワタシダ。ココダ。」と強烈な臭いで自己主張する。
人類はその臭いでカメムシパニックを起こす。
学校では授業が中断され、家庭では子供が泣き出す。
そんなカメムシが遂に永い眠りから醒め、我が家を侵略しようとしていた…
玄関先に漂う臭い。
「あいつだ!あいつが…家にいる!!」
大声で叫ぶ母。カメムシパニックを起こしていることは一目瞭然だ。
コタツで微睡んでいた私も、その叫びを無視することはできなかった。
重い腰をあげ、ガムテープ片手に奴の姿を探す。
しかし、どんなに玄関を探しても、奴を見つけ出すことはできなかった。
「私たち一家の殺気を感知し、闘う前に逃げ出したんだろう。弱虫め。」
私は警戒を解き、コタツで茶をすすることとした。
今年も嫌な季節が始まってしまったなぁ。そろそろ網戸の修繕が必要か、などと考えながら茶を一口含んだその瞬間、
隣の部屋にいた弟が突如ふすまを開け、叫び出した。
「俺のジャージが………臭うんだよおぉぉ!!!」
やられた。油断も隙も無い。
弟の部屋に侵入を許していたとは。
弟も母と同様、いやそれ以上に激烈なカメムシパニックを起こしていた。
弟はその場で着ていたジャージを脱ぎ捨て、上半身裸になると
「痛い!痛い!ここが痛いんだよおおぉ!!!」
と右腕を指差した。
その患部はカメムシパニックの元凶となるあの臭いを感じると共に、
なぜかカメムシの形そのままに、赤く腫れているではないか。
深刻な顔の弟をよそに、不謹慎ながら私は腹がよじれるほど笑い転げた。
しかし、私たちはまだカメムシの脅威から抜け出せた訳ではなかった。
奴の姿を、未だこの目に捉えてはいないのだ。
今度は私が先程まで茶をすすっていた、コタツ周辺からあのニオイがする。
踏み絵ならぬ踏みカメムシだけは逃れたい。
私の母と弟をパニックに陥れ、この安寧の地を破壊した元凶。
このガムテープであいつを捕らえるまで、私は諦めない!!!
必死で捜しつづける私に、弟が叫んだ。
「ここにいるじゃねえかよおおおお!!!!!!!!
」
弟が指さす先に見えたのは…
私がさっきまで茶をすすっていた湯呑みの中に
ぷかぷかと浮かぶカメムシであった……