Graap Gohu
黒野忍がMixiにて限定公開した2007年から2010年にかけ書き綴ったショートエッセイ28は多くのファンを魅了した。物語はファンタジーかと思わせるが、実際は衝撃的な終わり方、惨い終わり方、救われない終わり方恐怖の終わり方、そして異常ともいえる終わり方をする。ショートエッセイ全てを読むと、登場人物の因果関係が解る工夫がされている。2018年ショートエッセイ28をAmazao kindle版で発売する事が決定!読み切りとして第1夜と第3夜だけ公開!スキやフォローが増えれば書籍化になるかも?
第1夜 月影
葉っぱが全て落ち葉になる冬まじか。
こんばんは。熊さん。
こんばんは。烏さん。と月が夜の挨拶をします。 月は眠れぬ幼き動物に、妖精物語を聞かせます。
凍える冷気の女神は、幾万の霜柱を創造し地面に星を閉じ込める。
夜闇は月影を友として曙、目覚めを遠くに押しのけ永久に忘れぬ寝返りを産み落とす。
光は闇に恋をして森に雪を降らせます。雪は夢を捕まえて、積もる事をやめて天に帰り、森に静寂だけが降りました。
冬は微かな痛みを畏れて、涙を1粒置き去りに。
次の朝、幼い動物達が原っぱで遊ぼうと出掛けると、そこには、白い小さな狼がぽつりと黄昏れはまだかと座っていました。
変わった色の毛皮ね?と小鹿が聞きます。
僕は冬の涙で作られたから。
赤い目だね?と、りすさんが聞きます。
僕の目は情熱と温もりで創られたから。
毎日、動物達は、白い小さな狼と朝から晩まで遊びました。毎日楽しく遊んだので動物達は冬眠を忘れました。
春の女神が眩しい光を解き放ちました。春が森を祝福します。目覚めの太鼓が響き渡り植物が若葉を着飾ります。
いつもの場所に動物達が遊びにいくと白い狼はいませんでした。大泣きをする動物達。どこを探しても狼はいませんでした。
春の訪れが白い狼を溶かしてしまったのは月しか知りません。
毎晩、動物達と遊び終えた白い狼は自分が春には溶けてなくなると哀しく月に囁くのでした。
こんばんは。お話はいかがですか?
月が今夜も話をします。
第3夜 月記
今宵、先ほどまで雨が降っていました。
行き場を無くした天使がもう一度翼を広げて空を見つめています。
「こんばんは。お話はいかがですか?」
月は今夜もいつもの時間空に輝いていましたが、暗雲の姫君がドレスの裾で隠していました。なので月は少しだけ、ほんの少しだけ早足で空を昇りました。
湖の水面に輝く紫と黄色は一人の女性を照らしていました。
「最後の時に、私をどうか忌めて下さい。」女性はぽつりと述べました。
月は銀色の吐息をそっとそおっと吐き出して、その女性に語りました。
「私は貴方が生まれた、あの病院の小さな窓を今でもはっきり覚えています。貴方は世界の女王のように純白の産着に包まれて初めて吸った空気の味に驚いていましたね。 時間ですら貴方とお母さんとお父さんをはっきり見つめていました。 貴方が初めて、悪夢を見た深夜を私は今もはっきり覚えています。大泣きした貴方、なだめる母のその姿は、芸術家も嫉妬する、愛に満ち溢れた絵画のようでした。インプ達は9つの宮殿に戻り、ヒュプノスに貴方達のことを話していました。 私は今も覚えています。貴方の切ない吐息が部屋の窓を曇らしたあの明け方のことを。胸のほのかな痛みが流れ星を1つ呼んでいました。貴方はその時、愛する人の写真を見ていたので気がつかなかったと思います。
私は空から見ていました。貴方の心が生きる希望の灯火を追わなくなった4日前の時を。
貴方は、知っていますか?死は生を解毒する薬ではないことを。死は死の始まりで、決して苦しみを解決する道ではありません。レテの岸辺には数多くの人の記憶が砂となって降り積もり、ムニモジューネが気だるそうにそれを眺めています。
貴方は解っていますか?人生は思い描くほど楽しくはない挫折の連続だということを。誰もが皆、夜の闇時計を見つめて、もっと楽しく生きたいと熱望しています。
貴方だけが、333の鎖の主コロンゾンに手がけられてはいないのです。分散と混乱、灰色と退屈の生のカレンダーは人間全てがもっているのです。」
女性は月の話に耳を傾けながら、大きな4つのゴミ袋に生きる意志より重たい石を入れて袋の口を結びました。
「さようならお月様。最後まで私を見つめてくれるのね。」
女性はそういって湖に向かいました。大きなゴミ袋4つを手足に縛りつけ、今まで歩んだ20数年満たない重い人生の足取りをまねするかごとく。
冷たい湖水が彼女の決してふくよかではない胸まで達したとき、湖水の母ビビアンが、彼女の重い手足をより重くし、底に底に、月光すら届かない泥底に誘いました。
女性はあまりの苦しさと、もう飲む事が出来ないくらいいっぱいの湖水を飲みこんで、最後の空気を口から嘔吐し苦しさだけが彼女に残りました。
月はその沈む女性を照らし出し、優しさを持って見届けています。
「特別な、成功した人生の皇帝なんていないのに・・・」
月が涙をこぼす前に、暗き雲の女王が月を強く抱きしめて、
生きとし生けるもの、命亡き物の視野から隠しました。