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【小説】 白(シロ) もうひとつの世界 第21話
第21話
その話にリリーが口を挟んだ。
「ジャン、まさかあの扉に行きたいの?」
否定的な態度でそう聞くリリーに思わず返した。
「いや、リリーがそこに一緒に行こうって僕に言ったんじゃないか」
「私、そんな事言ってないわ」
まあ、そう言っていたのは向こうの世界のリリーだけど、でも……
「店のドアに張り紙で【しばらくの間休業させていただきます】って貼っていたし、店を休業にして森に一緒に出掛けたじゃないか」
もちろん僕が元いた世界での出来事だ。
でも、確かにこちらの世界も張り紙がしてあったし。
「何を言っているの? ジャン。あの張り紙は、最近調子が良くないからゆっくりしたいって言って、ジャンが貼ったんじゃない。森に行くなんて言ってないわ」
「えっ?」
いや、僕を誘ったのは向こうの世界のリリーだったけれど、僕はリリーに誘われて森に行く気になって、扉に張り紙をした訳で。
……でもこっちの世界のリリーは森に興味無いって事?
考え事をしていると、アンナが喋り出した。
「扉に触れたものは、この世界を変えちゃう力が宿るらしいけれど、そもそもそこに行って無事に帰って来たって言う話聞かないから。……もし行きたいなら、私はオススメしないけど」
「そうよ。ジャン。私、まだまだ一緒にやりたい事沢山あるの! あの扉になんて行かなくたって冒険は出来るわ」
「いや……行きたいというか……」
そうだ。そもそも、僕はあの扉の先に興味があるのか?
真実を追い求めてどうする? また扉の事を考えたりしてどうするつもりだ?
言葉を詰まらせた僕を見てアンナが、
「知りたいの?……私は、その扉がどうなっているか詳しくないけれど、詳しい人なら知ってるわ」と言った。
「えっっ??」
「ここに来てくれているお客さんで、その扉に辿り着く地図を持っていて、他にも沢山テーブルに資料を並べていたから、私たちの知らない事、きっと知っているわ」
……また追い求めて、どうする?
でも、このままモヤモヤしたままなんて……
「その人に……会える?」
アンナは頷いて、
「いつも、同じ曜日にここに来ていたから、多分明日の夕方にはここに来ていると思うけれど」と答えた。
「ありがとう。ちょっと話を聞いてみるよ」
「ジャン、大丈夫なの?」そう言ってリリーは心配そうな顔で僕の事を見ていた。
「話してみるだけさ」
僕は、リリーを安心させる為にそう言い聞かせた。