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【小説】 猫と飴 第5話
第5話
それから数日後、仕事から家に帰ると、部屋に彼女は大きなゴミ袋を三つも並べていた。
彼女の手元にはまだゴミ袋。段ボール箱をひっくり返して、沢山の服や小物の中から一つ取り上げて眺めては、ゴミ袋に入れていた。僕は散らかっている部屋を見て、彼女に尋ねた。
「何をしているの?」
彼女は、えへへ。と笑うと、今度はワンピースを広げて眺めた後、畳んで紙袋に入れて答えた。
「片付け! 要らない物を整理しようと思って」
そう言って、また段ボール箱から洋服を取り出し、広げて眺めた。本当に、彼女は思い立ったら何でもすぐに始める。そういう所が好きでもあるんだけど。
……まさか。ここを出て行くとか? いや、単なる断捨離なのか。
僕は恐る恐る聞いた。
「何で突然そんなこと始めたの?」
彼女はやはり洋服を手に取り、また畳んで紙袋に入れた。「フランスで可愛いものを沢山見つけたの。これからはもっと、お気に入りの物だけに囲まれる生活をしようと思って。必要の無くなったものを処分しているの。このお洋服は、リサイクルに出すんだ」
そう言って、せっせと洋服を畳んでは袋に入れていた。
僕は彼女が入れた並べてある開けっぱなしのゴミ袋の中から、一つヘンテコなポーズの狸の置物を取り出した。
これは僕と温泉旅行に行った時に、旅の思い出に。って、彼女が買っていたものだ。
「これ、前にすごく気に入っているって言ってなかった?」
彼女は僕が取り出した狸の置物をチラリと見て答えた。
「うん。それ、気に入っていたけれど、今はちょっと違うかなぁ〜って思って。今は、フランス気分!」
そう言って、フランスで買ったという香水瓶を僕にアピールする様に見せて、彼女は無邪気に笑った。
僕は手に取ったヘンテコなポーズの狸の置物をテーブルに静かに置き、
「……物は、大切にした方が良いよ」とだけ言った。
「うん。ごめんなさい」
彼女は申し訳なさそうにペコリと頭を下げて、笑った。
追いかけ続けるのに、少し、疲れた。
僕だけ、いつも必死だ。
それから数日後、仕事終わりに珍しく彼女から電話がかかってきた。
「今日、早く仕事終わりそうなんだけど、夜外食とかどう?」
急にどうしたのかな。今日に限って予定が入っているし、なんだかすれ違いばかりだ。
僕から断る事は、今までほとんど無かった。彼女からの誘いが少なかったからというのもあったけれど、今まで僕はいつだって彼女を優先してきたからだ。
でも今は、無理をしてでも行くという気分では無い。
「今日は行けない。みんなでこの後ご飯食べに行く事になったから」
僕はわざと、いつもより冷たい口調で言った。
「はいは〜い。了解! 楽しんできてね〜」
彼女はあっさりと答えた。
「うん。……それじゃあ」
僕は電話を切ると、目の前の椅子にスマートフォンを投げた。
誘ってくるのも、いつもの気まぐれ。彼女は、残念そうにもしない。
何故だか、こんな些細な事にまたイライラした。