【note安心創作勉強会】「文章の間違いや誤解を防ぐ校閲の基本」のまとめ
2021年12月8日に行われた【note安心創作勉強会】「文章の間違いや誤解を防ぐ校閲の基本」は、「添削業」をしている私にとっても、とても参考になる興味深い内容でした。
自分自身の復習と内容のご紹介を兼ねてまとめてみました。
講師のみなさん
◉LINE校閲チームの中村陽介さん、伊藤貴彬さん、澤田恵理さん
対象サービスは、LINE NEWS livedoor NEWS BLOGOS LIVE MOOK など
約20人のチームで365日、一人100本近くのニュースをチェックされているそうです。
基礎編|校閲のチェックポイント
最初は、中村さんが講師です。
いきなり、問題です。
この中に、3つの誤りがあるそうです。
皆さんは、わかりますか?
* * * *
では、答えです。
「国家」⇒「国歌」
「斉唱」⇒「独唱」:斉唱は複数で歌うこと
「大阪」⇒「大坂」:固有名詞
「このように、シンプルな文章でもクリティカルな誤りが潜んでいます。
この問題を出したのは、文章の誤りをチェックするときのやり方を再認識してもらうためです。
校閲者は、チェックするポイントを知っています。ポイントを最初に認識しておくことで、見つけることができます。」
「ここでは時間の関係で、①入力 ③日本語 ⑤ファクトチェック ⑥ポリティカルコレクトネス に限って説明していきます。」
①入力
☑変換ミス
「固有名詞などは注意して見るが、こういう誤りは見逃しがちです。」
ポイント:校閲者の土台、基礎中の基礎だが、1文字ずつ読むことが大切です。
☑タイプミス(誤字・脱字・衍字)
※「衍字」とは、余計な字が入るミスのこと。
・輸出力の強化を進めるととともに(衍字) 正:進めるとともに
・努力を続けていかなかければならない(誤字) 正:いかなければ
・録音してきばかりのライブ音源(脱字) 正:きたばかり
「これを見つけるには、1文字ずつ読むことが大切です。」
ところで、タイプミスの場合、日本語の特徴として、
「タイポグリセミア」(Typoglycemia)と呼ばれる現象があります。
つまり、文字の順番が入れ替わっていても、最初と最後の文字が合っていれば、正しく読めてしまう現象のことです。
これは、タイポグリセミアを利用した広告です。
②日本語
☑てにをはの誤り
つながり、係り受けの誤り。
助詞の誤り。
助詞とは、語と語を結びつけるはたらき、名詞について主語にしたりするはたらきがあるもの。
・医療リソースに限界にせまる 正:医療リソースの
「ポイントとしては、言葉の単位として読む。
先ほどは1文字ずつと説明したが、加えて今度は、言葉の単位で読む。
単語<文節<文<段落<文章
文を単位に読むようにする。」
☑用語の意味・用法の間違い
公示は、天皇の国事行為をともなう選挙に対して行われる
→衆議院の総選挙、参議院の通常選挙
「ポイントは、知識を要するということだが、そうはいっても、自分の知識を過信せず、一つ一つ調べる行為を大切にすること!」
☑つながり、係り受けがおかしい
文部科学省は、教員免許の更新が必要な「教員免許更新制」について、教員の働き方や経済面で負担が生じているなどとして、早ければ2023年度から廃止する方針が表明しました。
「日本語の特徴としては、主語と述語が1つずつの単文のほかに、主語と述語が1つの文章内に複数存在する複文、重文などの種類があります。
ですが、一文が長いほど主語と述語のねじれがおきたり、修飾関係、係り受けがおかしくなったり、また場合によっては文章の意味が変わってしまったりすることがあります。」
「ポイントとしては、先ほど1文ずつ読む、文を単位として読む、と述べましたが、ひとつの文が長いほど主述関係や係り受けの誤りをとらえるのは難しくなります。」
「ですので、クリエイターの方やライターさんは気をつけると思いますが、長めの文章を書かない、ということに加えて、
もし長めの文章をチェックする場合は、文節ごとに主述関係、修飾関係を整理して、より文章全体を俯瞰して、文章を構造的にチェックする必要があります。」
「特に長い文章で、述語が受け身になっている場合は、注意が必要です」
次に講師が変わって、澤田さんからです。
基礎編|どうして校閲が必要なの?
細かすぎる! 校閲ってそもそも必要?
◉読みづらい文の影響
・複数の解釈ができてしまう=事実誤認のおそれ
・途中離脱される可能性=伝えたいことを最後まで読んでもらえない
◉”ファクト誤り”の影響
・関係先に迷惑をかける
・コンテンツの質に大きな疑念を持たれる
=執筆者本人・所属先・公開したプラットフォームの信用⤵
◉間違った認識を広めるおそれ=公開の場に出されるもの
・推量と断定の混同
・コンプライアンスに反する内容
コンプライアンスとは、法令だけでなく、広く社会規範に照らしていう。
・ポリティカルコレクトネスを無視した内容
※読んだ人を傷つけないこと
ポリティカルコレクトネス(Political correctness)とは?
=[語句や表現が]性差別・人種差別などの偏見を含まないこと(三省堂国語辞典)
◉インターネット上のコンテンツは、印刷物と異なり”誤り”をすぐ修正できるのでは?
→スクショ可能。SNSなどで拡散されやすい。なので、公開前の入念な確認が大事。
⑤ファクトチェック
ファクトチェックとは?
情報の信憑性を検証すること。文書や発言に事実として示されている事柄に誤りがないかを調べること。真偽検証。
ファクトは記事の根幹。
事例① 「地名+肩書」のファクトチェック
〇「A県B市の市長」を省略するさい
「B市長」とすべきところを「A市長」と誤表記した。
A市長が実在し、異なる記載で誤解を招いたとしてお詫びした。
〇県名と市名の取り違え以外にも
○○+肩書
・○○が人名のとき→地名と混同する可能性
・○○が地名のとき→人名と混同する可能性
〇福岡市長は4人?!
福岡市(福岡県)―高島宗一郎 → 表記例:福岡市の高島市長
茨木市(大阪府)―福岡洋一 → 表記例:茨木市の福岡市長
香芝市(奈良県)―福岡憲宏 → 表記例:香芝市の福岡市長
三次市(広島県)―福岡誠志 → 表記例:三次市の福岡市長
〇ファクトチェックのよくあるミスの特徴・注意点
固有名詞 人名(肩書) 地名 国名 会社名 商品名 など。
☑公式サイトで確認/検索ショートカットキー[Ctrl+F]などが便利
数字 日付 年齢 金額 単位 など。
☑大きな数字は塊で見ない/カシオ「生活や実務に役立つ計算サイト」が便利
その他
最上級表現 「唯一の○○」 「○○初」
発言などの事実関係
☑複数のサイトでチェック
⑥ポリティカルコレクトネス
力を入れているところで、ときには編集領域にかかるチェックも、これにかんしてはしている。
◉ポリティカルコレクトネスの定義
[語句や表現が]性差別、人種差別などの偏見を含まないこと。
事例② 性自認の無視
”ジェンダーレス”を公言している人物の記事が美女という区分けで紹介されていた。
注意点としては、手前勝手に性別で括らない、判断しないこと。
ポリコレ・コンプラに関してよくある指摘の特徴・注意点
差別・偏見―性別 容姿 障害 病気 国・地域 民族 など。
不快―暴力 生理的嫌悪 性的訴求 など。
公序良俗―法令違反 社会規範に反する内容 など。
◉性別・容姿の表現に批判や意見が集まりやすい印象がある。
性のあり方は本人しか決められないという認識、手前勝手に性別で括らないことが大事。
※五輪関係だけでもこんなに!
・五輪関係者が女性タレントの容姿を侮辱するような発言
・組織委員会の当時の会長が女性蔑視発言
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」
・”美人アスリート”報道への物議
「美しすぎる」など競技と関係のない取り上げられ方
※性別・容姿に関する参考になるガイドライン記事
・LGBT報道ガイドラインー性的指向・性自認の視点からー|LGBT法連合会
・NHK放送ガイドライン2020|日本放送協会
・ルッキズムと向き合う|東京新聞
・東京五輪”美人アスリート”報道に物議「人種差別や経済格差の視点を持って|ABEMA
実践編|問題に挑戦
問題①
ここからは伊藤さんの担当です。
答えです。
発覚→判明 など。発覚:隠していたことが明らかになる
重傷→重症
看護士→看護師
まで→までに
問題②
以下の文は、LINE校閲チームがポリコレを意識して実際に指摘したものです。指摘理由を考えてみてください。
答え:明らかな偏見。フィクションの世界が前提としても、気分を害する人がいるのでは。
問題③
以下の文は、LINE校閲チームがポリコレを意識して実際に指摘したものです。指摘理由を考えてみてください。
答え:「なってしまい」という残念なニュアンス。避難者の心情に配慮し、「避難所になったため」に修正。
おわりに 校閲者が考える”書くときの心構え”
実際には、”セルフ校閲”は相当に難しいです。
[創作]
いかに面白く、発見があり、充実した独自性のある内容か
[校閲]
・正しい内容か
・誤読のない読みやすい文章か
・不安な表現はないか
校閲者が考える”書くときの心構え”
◉「書く」と校閲を切り分ける
◉誤りや炎上の起因を把握する
◉自分を信用しない。すべて調べる。
校閲は「書き手が伝えたいことを100%届ける仕事」
◉今日から使えるTips
・一晩おいて翌朝読み直す
・声に出して読む
・印刷して読む→最低3回は読み直す
・友人・知人など第三者に読んでもらう
【質疑応答】
質問① 校閲の仕事に挑戦したいがトライアルに落ちている。どうのように勉強すればいいか?
回答① いろいろなやり方があるが、個人的意見としては、自分を信じないで調べる癖をつける。基本的日本語力も必要。作文をすることもよい。執筆者、編集者の立場を理解しておくことも大事。
質問② 「わかりやすい日本語」という観点で校正や言い回しを提案すると、執筆者本人の持ち味や文体を殺していないか不安です。
回答② 私たちも悩むポイント。「わかりやすく」というなら、おそらく原文が読みづらい、誤読の可能性があるということ。校閲の立場としては優先すべきは読者の目線でのわかりやすさ。そのうえで、さしかえ文を提案することはあるが、基本的なスタンスとしてはあくまでも誤読の可能性のポイントを伝えるにとどめておく。
なぜか。ミスを防ぐため。ポイントに客観的理由を添えて指摘するのが基本です。
【感想】
添削・文章アドバイスを仕事にする私にとって、わくわくするような興味深い内容でした。
ぜひ教えていただいたことを糧に、今後に生かしていきたいと思います。
あらためまして、note運営の皆さん、LINE校閲チームの皆さん、ありがとうございました!