【第2章】その59✤エドワードの思い
カンタベリー大聖堂に描かれたエドワード4世のステンドグラス
エドワードは、
「今、皆でロンドンへ行くのは早急過ぎる」という母セシリーの返事を受け取り、苛立ちを隠せなかった。
「王になって迎えに行く」とベアトリスに約束したから自分はこんなにも頑張ることができた。数々の苦しい戦闘中にも、いつも心の中にはベアトリスの姿があったのだ。
確かに戴冠式はまだ先の事ではあるが、一時も早くベアトリスに求婚して、彼女に対する自分の真摯な愛情を示したかった。
ベアトリスが自分をどう思っているかはわからないが、どのみちエドムンドは死んだのだ。今やベアトリスの心を占める者はこの世にはいないではないか。
ベアトリスが例え今はどう感じていても、ロンドンへ来て、自分が王として皆に傅(かしず)かれる姿を見れば気持ちも変わるに違いない。
「王になってから男供(ども)は自分を怖れと尊敬の目で見つめ、女供(ども)は熱い憧れの眼差しを向けるようになった」
ウォリック伯は常にエドワードを美しく着飾らせた。長年精神を病み、風貌は僧侶のような、そしていかにも病弱そうなの全王ヘンリーと対比を見せつける必要があった。
「若くて健康で美しい王」を国内だけではなく海外にも知らしめることは、今のイングランドにとって大切なことだったのだ。
実際、顔立ちが整った金髪のエドワードは193㎝近くもある高身長だったため、特に甲冑を付けた姿は美しかった。若く健康的な国王に相応しい容貌を備え、またここ最近は彼の待つ雰囲気も著しく変化していた。
長年ライバル視していた弟エドムンドが亡くなり、彼の心に影を落とすものはなくなった。そして父リチャードが亡くなり、ヨーク家の一族を背負うものとしての責任感が強く生まれたのも事実だった。
そしてなんと言っても王になったのだ。
「王になって迎えに行く」という言葉が、今こそ果たされる時が来たのではないか。
ロンドンの宮廷に入り、宮廷を取り巻く女達を見渡しても、やはりベアトリスほど美しい女性はいない。彼女はポルトガルの血を引いているせいか、イングランドの青白い肌の女達とは雰囲気が違ったのだ。今や女性の多くは彼に色目を流すが、ベアトリスの美しい栗色の髪、そして思慮深い眼差しの元にあるきらきらと輝く美しい青い瞳、8歳の時に初めて彼女を見た時に、心惹かれた事をエドワードは忘れることができなかったのだ。
エドワードは思った、もしかしたらあの時から自分はずっとこの日は来るのを待っていたのだろうか、王になって彼女を自分に振り向かせることを……。あの初めて彼女に会ったあの日から……。
少なくても子供時代から、長年に渡り彼女を欲してきたエドワードにとって、ベアトリスは唯一無二の存在だった。
しかも最近ウォリックは、
「エドワード様、戴冠式が決まったら王妃になる方を探さなければ。私はフランス王に相談して、フランス王縁者の姫を王妃に迎えるのが良いのではと思っております」などと口にするようになってきた。
ウォリックが勝手に自分の縁談をまとめてくる前に、ベアトリスの気持ちを知りたい。
そう思っていたというのに、母セシリーは戴冠式までロンドンへは来ないというのだ。
ではもう致し方ない、自分があちらへ行くしかないだろう。
そう決心し、ベアトリスのいるミデルブルグへ行こうとしたその時、ヘンリー前王とマーガレット王妃がまたのやランカスター軍を終結したという報せが入る。
心はベアトリスの元へ駆けつけたかったが、王である、いや王として戴冠をひかえたエドワードは、ランカスター軍のいるというタウトンへ駆けつけるしかなかった。
1461年3月中旬のことだった。
イングランド史上でも1,2を争う残虐な戦いとも言われた「タウトンの戦い」が今まさに始まろうとしていた。
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