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焼き芋

 街灯が暖かな光で、チラチラと舞う雪を照らす。私達は寒さに凍え、互いに身を寄せながらバス停に座った。銀世界の中で、両手に抱えた一つの焼き芋だけが、私を温めた。一息ついたところで、私の左側に座る優衣のことを見た。来月は優衣の六歳の誕生日だ。
「焼き芋食べよ!」
「そうだね、半分こしよっか」
私は手で焼き芋を半分に分けた。白い蒸気がほわぁっと上がる。この蒸気は、雪と同じ白色だけど、比べものにならないくらい暖かい。これが、私がずっと、本当にずっと夢みてた瞬間なんだろうなぁと、神様から啓示を受けたような感覚で悟った。半分にした焼き芋の、大きい方を優衣に手渡す。ありがとうは? と聞くと、ありがとう! と大きな声で答えてくれた。優衣が、言葉を大切にする子に育ってくれたらいいな。ふと、焼き芋は私と優衣に似てるんじゃないかと思った。最初は一つだけれど、いつか二つに分かれる。でも、暖かさはそのままだ。そりゃぁ時間が経ったら冷めちゃうけど、それまでは同じ暖かさを共有したままだ。澄んだ雪が舞う。ああ、今だ。そう思った。今が一番の瞬間なのだと。今、言おう。
「ねえ、優衣」
優衣が私を見る。
「優衣にはね、もう一人お母さんがいるの」
私は優衣の顔をしっかり見ながらそう言った。だけど、言葉を言い終わった時、私は優衣の顔から目を逸らしてしまった。目頭が熱くなって、鼻も詰まってきて、喉も痛くなってきたけど、続きを言わないといけない。今言えないと二度と本当のことを優衣に伝えられない気がするからだ。優衣に、彼の話もしなければいけない。
「あとね、優衣にはお兄ちゃんがいるの。もうお空にいっちゃたけど」
私は、私の頬に涙が流れているのを感じた。勇気を出して優衣を見てみると、優衣の顔にも涙が流れていた。ああ、これが幸せなんだと。これが夢みていた瞬間なのだと、改めて感じた。私は、先輩のママさんから教わった言葉なんか忘れて、無我夢中で喋り続けた。
「彼——優衣のお兄ちゃんはね、死んじゃったの。辛かった。でもね、そんなとき優衣に出会った。あとね、覚えていて欲しいことがあるの。私は優衣がお兄ちゃんの代わりなんて思ったことはないから。これだけは覚えてて」
私は泣きじゃくりながら優衣を抱きしめた。優衣は、まだよくわかっていないみたいだ。でも、きっと、この瞬間をいつまでも覚えていてくれるだろう。そんな気がする。
「ねぇ早く焼き芋食べようよ」
「そうだね、食べよう」
私は笑顔でそう言った。

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