思い出しやすい記憶 と 思い出しにくい記憶
記憶には思い出しやすい記憶 と 思い出しにくい記憶があります。
思い出しやすいのは
学生の頃の思い出
楽しかったこと
悲しかったこと
など自ら経験した記憶、いわゆるエピソード記憶といわれているもので、
逆に思い出しにくいものは
知識として丸暗記した記憶です。
エピソード記憶は、
そのときの自分の感情や風景、音、においなど様々な要素が
複合してできた情報の塊として脳に保存されています。
そのため、ふとしたきっかけ(同じような場面に出くわした、同じにおいがした、同じ音楽が流れたなど)があれば、一気に思い出すことができます。
一方、丸暗記した記憶(漢字や単語など)は、
その知識自体に情報や意味はありますが、
それしかないため関連した情報がほとんどありません。
エピソード記憶にくらべて、ふとしたきっかけとなるものが
はるかに少ないから思い出しにくいようです。
そこで、
学校の授業においても生徒自らが経験できるような学習法をすれば、
学習した内容が思い出しやすくなるのではないかと考えたいところです。
しかし、
・生徒が経験できる学習内容ばかりでない。
・生徒が経験する学習を行っても、本質に注目するとは限らないため、
授業者が記憶してほしいという願う内容と生徒の記憶に残りやすい
内容を一致させる授業を構築するのが難しい。
(例)中1数学の空間図形の単元で、
生徒たちがブロックなどのパーツを使って直方体や三角錐などの
立体を組み立て、その名称や特徴を確認する授業をしましたが、
どんな立体を組み立てられるかということに夢中になりすぎて、
「楽しかった。またやりたい。」
という作業についての記憶だけが残り、
覚えてほしい立体の名称や特徴はすっかり忘れてしまう授業に
なりました。
・授業時数が足りない。
などの問題点があるため、私には難しいと感じました。
そんなときにヒントをくれたのが、私が愛読している
『池谷裕二著 受験脳の作り方』
『ベネディクト・キャリー著 脳が認める勉強法』
などの本でした。
体験的な授業ばかりを目指すには限界があるので、
体験的でなくても、学習する内容がエピソード記憶のような情報の集合体となるように構築すればいいと気づかされました。
有名な方法の1つとして語呂合わせがあります。
語呂合わせは、覚えたい知識に音、リズムという要素を関連させた
情報の集合体で、忘れにくく思い出しやすい記憶になります。
(知識+音+リズム=記憶)
私が12の2乗が144になることから、144の平方根が±12であることを
教えていたときのことです。
生徒の1人が
「144(イーシーシー)12(ジュニ〇)で覚えたらいいんじゃないか?」
という語呂合わせを発言したことによって、
爆発的な勢いで、144の平方根の正答率があがりました。
「144は12の2乗」という知識に、
有名な英会話のCMのイメージ
語呂合わせによる音、リズム
という要素が追加されたことによって情報の集合体となり、
忘れにくく思い出しやすい記憶として生徒に定着したためだと思われます。
ただし、
すべての学習内容で語呂合わせを作る才能が私にはなかったため、
効果的であるとわかっていても、
なかなか発展させることはできませんでした。
他にも
問題を解くときに、既習内容との関連を示唆したり、
1つの知識のいろいろな活用法が試せる問題のパターンを増やすことで、
知識、複数の活用法、問題のパターンを関連させたり、
(知識+活用法+問題パターン=記憶)
言語だけでなくイラストなどのイメージと関連させたり、
(パワーポイントで図やイラスト、アニメーションを多用)
リズムに合わせて覚えられるように工夫したり、
いろいろと試してみました。
思い出しやすい記憶をつくる授業研究は大いに可能性があると思います。
ちなみにエピソード記憶といえば、
私が高校生のころの物理の授業の記憶が鮮明に残っています。
あるとき物理の授業が突然、自習となり、
その先生が事故に遭ったと聞きました。
乗っていたバスが高さ制限のある高架に衝突し、
そのとき立って乗車していた先生がフロントガラスを破って
外に放り出されたそうです。
幸い命に別状はありませんでしたが、
後日無事、快癒して授業が再開されたとき、本当に良かったと思いました。
そのときの先生の第一声が
「これが慣性の法則や!」
でした。
自分の事故を題材にまでして物理の授業にしたインパクトが強すぎて、
心配していた感情も含めて私の脳に焼き付けられました。
永遠に忘れない授業がここにあります。
※慣性の法則:外部から力が働かない限り、静止している物体は静止を
続け、運動している物体は等速運動を続けるという法則