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夭折の画家、ウィリアム・キーツの話──No.11
「If on a winter's morning a traveler(冬の朝ひとりの旅人が)」と題されたこの絵は、驚くことにウィリアム・キーツが二十二歳の夏に仕上げたものだ。
キーツは二〇歳を過ぎたころから、ことあるごとにジェイムズ・ジョイスの『ダブリナーズ』を読んでいたという。アイルランドの作家が若き日に書き上げた短編集に流れる暗さを、キーツは忌々しく感じていた。友人のカレル・ヤンクロフスキに宛てた手紙で「動け得ぬ者たち(The Unmovable)の痛ましい話の数々が、僕は心底嫌いだ」と記している。
妹のルーシーが結核でこの世を去ってほとんど休む間もなく、キーツは再び悲しい出来事に出くわした。カーディフ・スクール・オブ・アート&デザインに進学することを決めた矢先、父が亡くなり、カーディフ行きの夢を諦めなければならなくなった。皮肉なことに、キーツもまた「動け得ぬ者」だった。
だから夏に描かれた「If on a winter's morning a traveler」には、「心底嫌い」なのにもかかわらず、繰り返し読まずにはいられなかった『ダブリナーズ』の影響が色濃い──キーツと同じバンゴール生まれで桂冠詩人の候補にもなった詩家のギャレス・エドワーズはそう読み解いている。
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