MONKEY vol.25「湿地の一ダース」
日本語では一字で表せても、英語だと何十種類で表さないといけない言葉があります(日本語でも同じですね)。
「馬車」という言葉は英語だと何十種類もあるそうです。
ジェーン・オースティンは小説で「馬車」の表現の使い分けによって人格や貧富の差を表現するということを行なっているようです。
「湿地」も英語には数種類あって同じとのことです(その種類ごとの解説も載ってました)。
ならば、「湿地」についても「馬車」同様に、それらを用いてさまざまな表現をした小説があるのではないかと考え、今回の特集が決まったようです。
どの作品も「湿地」が舞台だったり、重要なキーワードになったりしています。
その「湿地」特集で良かったのは以下の作品です。
柴崎友香「底なし同士」
僕はこの人の作品が割と好きです。この「MONKEY」で初めて読んで以来、好みになりました(でも、単行本とか読んだことはない)。
今回取り上げたこの作品も彼女特有のほのぼのした文章の中からじわじわ湧き上がる趣きというのか味わいがとても良いです。
ソロモン・ノーサップ「『奴隷の十二年』より第十章」
奴隷制度時代のアメリカで酷使に我慢ならなかった奴隷が逃げ出すシーンの描写です。
躍動感がものすごい。ページを捲る手が止まらなかったです。
マシュー・シャープ「なぜ働くか」
柴田さん推しの掌編作家。
小噺的にストーリーが展開されるわかりやすいものもあれば、頭を捻る作品もありますが、これは分かりやすい方。オチがあって面白かったですね。
リック・バス「ミシシッピ」
生き生きとした文体で登場人物の小悪さが上手く描かれているいい作品。
故郷愛っていいものですね。
連載では西川美和「わたしの知らない子供たち うつろいの秋」が良かった。
戦中、東京から地方に集団で疎開する女の子たちの行動や心の動きを細かく捉えています。
地方に疎開しても、小学生の女の子たちの持つそれなりに醜い人間性(いじめ、疎外、狡猾など)がとても上手く描かれています。
そういう異常な環境の中で軍国主義に染まった小国民である主人公は翻弄されて行きます。
そして、結局窮乏生活の中で絶望感を味わって行き、勝者も敗者もない人間関係に変わって行きます。
20231031
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