インドとオムツ外し学会と看護師の私と介護
2024年を振り返る投稿をしよう。
まず、オムツ外し学会。
「オムツ外し学会」というのは、1988年から全国各地で不定期に開催されている高齢者ケアの研究会というか、実践発表会のこと。
主宰の三好春樹さんを中心に魅力的な介護を実践されている講師の方々から、リアルな介護現場の実践のお話しが聞ける会でなのである。
「学会」といより、介護に携わる人のためのイベントのような感覚で、非常に賑やかで楽しい介護に携わる人の祭典といった印象だ。
私は、訪問看護をするようになる前、認知症疾患治療病棟で働いていた。その頃にこのイベントを知り参加したのはもう、15年くらい前になる。
その時から、三好春樹さんのことを知り、三好先生語る介護の面白さに魅了された。
と同時に、毎回三好先生の話の中に出てくる、安静看護の弊害と、それを生活現場である介護にまで強要し、寝たきりを作る介護の敵のような看護師の話し。耳がいたく、ショックだった。
その頃自分のいる環境が正にそれをしていて、心が痛くて、恥ずかしくて、この会に「私は看護師です!」と堂々と名乗れないでひっそりと、静かに話を聞いていた。
しかし、どんなに肩身が狭くても、このオムツ外し学会に繰り返し参加したのは、純粋に面白かったからだ。
そう、よい介護の話は面白かった。
何が面白いって、皆違っていてマニュアルなんかじゃ人括りにできない手作りの個別ケアなのだ。
それは、極めるって事はきっと永遠に無く、ずっと、ずっと、それぞれのお年寄りのその時に向き合って、感じて、考えて、関わっていくってこと。
正解は一つではなく、不正解と呼べるのは、お年寄りが嫌がることをすることくらい。
介護とは、工夫する楽しみがいっぱいの、スーパースペシャルクリエイティブな仕事なのだ!
オムツ外し学会は、その実践をしている人たちがイキイキと、それぞれの介護を語る集い。
そりゃぁ楽しいにきまっている!
しかし、そんなオムツ外し学会に填まったものの、当時私は高齢者の多く入院する病院の看護師だった。
介護を中心とする施設と同じ高齢者を対象にしていても、病院の目的は病気や怪我を治す事。
治療の妨げになることは禁止。
決まりがいっぱいで、工夫よりも、マニュアル通りに、医師の指示通りに過ごしていただくのが大事とされる。
そこは、べき!ねば!に溢れた世界。
それが正義で、「命を救う」という事を大義名分に、病や、怪我を直すための『治療』のためなら、その人の『人生』や、『生活』は後回し。
うん、ある意味解りやすい世界。病院は、お年寄り
の人生ではなく、人体を診る『治療の場』なのだ。
しかし、『老い』は治療でどうにかなるものではない。
老いに伴う体衰えからの不自由さや不調は確かにあって、できることなら魔法のように薬で治してほしいと多くの人が願う。しかし、病の急性期に症状を和らげる薬などはあっても、老いによる不調を根治させるものは無い。
むしろ慢性化した症状に対し漫然と飲み続ける薬の副作用で、健康を害する事も多い。
ようするに、老いは薬では治せないのだ。
慢性化した症状は、老いにはつきものだが、医療はあまり効果がないのだ。
「慢性期は生活期と言い換えましょう」と、三好先生は言われる。
生活期には医療ではなく、介護の出番。
よい介護が、お年寄りを元気にしていった体験を、三好先生は長年語ってこられ、それに賛同した仲間が、さらによい介護の実践を積み重ね、体験を伝える。
その発表の場でもあるのがオムツ外し学会なのだ。
病気を治す治療には、ガイドラインがある。
だから、大筋みんな同じでいい。個別性より、科学的根拠、データーに基づいたことが大事とされる。看護と介護は似ているようで、役割や、目指すところが違っている。医療現場の看護では、なおのこと違うのだ。それを介護現場まで持ち込むと、それはは不協和音が生まれるだろうし、害とされても、敵とされても当然のことだろう。
今は、介護の現場でも、科学的介護を!と、データーに基づき、介護を科学していこうという動きがあるが、まあそれも大事かもしれないけれど、介護はそれだけでら、いい介護にはつながらない。
介護は人生に寄り添うもの。だから、一人一人違う。それぞれの介護が、手作りなのだ。
データーでは計れない部分が多いのだ。
医療だけをモデルとしていては、介護の真骨頂が発揮できない。
私はそんな、介護と看護(病院の)の違いについてがよくわかっておらず、医療現場の看護師であり、お年寄りの人生に寄り添えていないことに、引け目を感じていた。
手作りの介護を実践している全国の愉快な仲間が集う『オムツ外し学会』に何度も参加していたものの会場で講演は聞いても誰とも交流せず、そっと参加してそっと帰っていたのは、そんな理由からなのだ。
それが、2023年暮れの大阪のオムツ外し学会に参加して私の介護の世界への距離が
ぐーっと近づくことになる。
2023年12月、大阪オムツ外し学会、その時三好春樹さんの本の販売ブースを見ていた時に、三好先生ご本人がそこにおられた。
本と共に置かれていたチラシの中に、『三好春樹と行くインドツアー』の広告が置いてあった。
このツアー、私がオムツ外し学会に参加し始めた頃から行ってみたいと思っていたツアー。
「介護職よ、北欧よりインドへ行こう」
この謳い文句にずっと引かれていたものの、仕事のこと、お金の事、家族の事、色々なことを理由に、私は行けないと決めつけていた。
それがこの時、三好先生ご本人から、このチラシの前で、「あ、それ、持って行ってください。あと残り数人です。もう、最期になるかもしれないですよ。」と、声をかけられたのだ。
毎年行われていたこのツアーですが、コロナ禍で催行できず、今年久しぶりの再開になっての第一弾にして、最期かもしれないと聞いて、私はこれに参加しないと絶対後悔すると思い、その場で半分行く方に気持ちは傾いていた。
しかし、現実を見ると、シングマザーで、今年美容専門学校に入学する娘に目眩がするほどのお金がかかってくること、養育費を一方的にフェイドアウトされてピンチであること、実家が近いとは言え、まだ小学生の子を5日間預けて留守にすること、仕事のこと(これは一番どうにでもなると思った)等の現実が次々浮かんで、やっぱり諦めようかと思ったけれど、最期かもということが決定打になり、思いきって申込の電話をした。
そしたらなんと、キャンセル待ち!
あー、やっぱり無理なのかぁ…としょんぼりしかけた私に、「とりあえず、時間がないので準備だけはしておきましょう!」とツアーの担当の方が、行けるかどうかわからないけれど、パスポートやビザの準備をするための書類一式送ってくださり、この旅行が初海外になる私にとって、全て初体験となる旅の準備が始まった。
こうなると、行けないかもしれないなんて、もう微塵も頭にはなく「なんとか連れていってもらえるだろう」と、行ける気満々で旅支度を着々と進めた。
そして、キャンセルが出たのではなく、増席という形で、ツアーへの参加が決まり、インドへ旅立つことができたのだった。
インドでの体験は、それはそれは、衝撃的で、楽しくて、初めてなのに懐かしささえ感じる、不思議な旅になったのだが、そこでの詳細な体験は、ここでは長くなりすぎるのでまた別の投稿でしよう。
そして、インド行きを決めるまでに、行けない言い訳は全く問題なくクリアできていて、たいがいの事は、その気になって行動すれば叶うのだという自信にもなった。
このインドのの旅で得た大きなものは、介護を魅力的だと思っている愉快な仲間との繋がりと、私が本気で介護とは何か?ということをもっと深めて学びたいと思うきっかけとなったことだ。
この旅の後から、私は三好先生の生活リハビリ講座に参加したり、オムツ外し学会でも登壇されている髙口光子先生の介護セミナーを、毎月のように受講し、老いとは、介護とは何かについて、お二人の先生のお話から楽しく学んだ。
講座の後の懇親会にも、インドに行ったお陰で、気持ちを臆すことなく参加して、そこに参加されている全国の介護に魅せられた仲間と繋がることができた。
9月には、私の住む滋賀県でもオムツ外し学会が開催された。滋賀県に住む介護職の方が主催し、地域の介護職ではない人たちの助けで、お年寄りの生活を支えておられる実践を、その地域の方々に発表してもらうという、今までのオムツ外し学会には無かった形の会になった。
私は今、定期巡回で在宅介護や看護に携わる中、これからの超高齢化社会を迎えるには、介護職だけが頑張っていても支えきれないと、じわじわと感じていた所だったので、正にこれから地域に必要な取り組みのお話を我が町滋賀県で聞くことができて、とても嬉しかった。
その会で聞いた鹿児島の『いろは』の中迎さんの、地域を巻き込んだ、やりたい介護をまっすぐ突き進んで実践されてきたお話や、京都の丹後のしずちゃんハウスを立ち上げた、松本さんと、その地域の方々とのご縁で進んでいく介護のお話にも感動した。
そして、今年12月の大阪オムツ外し学会。
昨年のようにひっそりと参加ではなく、沢山の仲間ができて、仲間と会えることを楽しみに参加するようになった。
そして、なんと私はポスター発表で参加させてもらった!
昨年のオムツ外し学会の時には、全く想像もしていなかった景色が、私の前には広がっている。
定期巡回の管理者になって4年。
看護師として、介護の事業所のリーダーとして、管理職として、紆余曲折してきた。
介護とは何か、定期巡回で皆様にどのように役立ってていけばいいのか?
分からないことだらけの中、オープンした時にいたスタッフは皆いなくなり、全て入れ替わって残っているのは私だけになってしまった。
その事でとても悩んで、私がリーダーではダメなのではないかと思っていた。
しかしこの一年前ののオムツ外し学会から、インド、三好先生、髙口先生の介護セミナー通いと、滋賀と大阪のオムツ外し学会で、確実に私は変わった。
介護とは何か、やりたい介護、作りたいチーム、地域の中で自分がやりたいことまでもが、はっきりと思い描くことができるようになった。
私が変わることで、チームも変わってきた。
いい感じに皆が楽しそうに介護に取り組み、若いスタッフが生き生きと働いている。
濃厚に介護を学んだ一年になり、私は生活を支える介護に携わる看護師です!と、胸を張って言えるようになった。
インドの神様のお導きかな?
本当によい年になった。
来年も、もっと楽しく人と繋がり
進化する予感しかない。
ご縁の繋がった皆様ありがとうございました。
これからも、よろしくお願いします!
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