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米中覇権戦争の中で「台湾」を考える—— コロナ後の世界を見据えて

TBSでアナウンサーをしていた頃、ニュースを読むたび、「○ケ国と地域が参加して」と言うことに違和感を覚えていた。

「地域」とはもちろん、台湾のことだ。
台湾を挟んで米中の鞘当てが起こっている今、台湾について考えてみるのも良いかな?と思う。

1、 台湾をアメリカの高官が訪問

9月17日、台湾にアメリカのクラック国務次官が訪問し、李登輝総統の告別式に参列し、蔡英文総統との会談も行う。
1979年の断行以来最高位の国務省(外務省)高官の訪台だ。

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アメリカからの高官としては、先月アザー厚生相がコロナ対策について話すため、閣僚として初めて台湾を訪問したばかりだ。

クラック国務次官は今後の米台湾の経済協力についても話し合い、 FTA(自由貿易協定)締結も視野に入れているとされる。

そのために台湾はすでにアメリカからの肉の輸入制限を緩和しているほどの意気込みだ。

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これらのことに中国は大きく反発している。


2、 中国の反応

「これはアメリカと台湾の公的関係を深めようとするもの」であり、「中国はアメリカと台湾の交流に反対する」と中国の報道官が大反発している。

今回の訪問に対して、「必要な外交措置をとる」としている。
つまり、報復の行動をとるということだ。

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この数年、中国は台湾の孤立化を進めてきた。
W H Oの総会にも参加を邪魔されたことは記憶に新しい。
先月のアザー厚生相の訪問の後は台湾海峡などで軍事演習を行なって威嚇した。

台湾の国防省は、19日、中国の戦闘機「殲16」など計19機が、台湾海峡の中間線を越え、台湾側に侵入するなどの飛行を繰り返したと発表した。台湾の李登輝・元総統の告別式が行われた時間帯だった。

さらに中国軍機は台湾と、台湾が実効支配する東沙諸島(台湾南西部)の間を複数回通過し、防空識別圏に入ったことも確認された。


3、 台湾って国じゃないの?

そもそも、台湾は、「国民」、「領土」、「統治する政治機構」、という近代国家を構成する全ての要件を満たしている。
コロナ対策の成功や民主的な選挙、人権を考えても、中華人民共和国よりはるかに近代国家として相応しく見える。

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にもかかわらず、なぜ台湾は「国」ではいけないのか?

そもそも、「中華人民共和国(中国)」に追い出される1971年10月までは台湾は国連にも加盟していた。

「一つの中国」というのは北京政府が1970年代、勝手に持ち出した概念に過ぎない。
曰く、1、世界に中国はただ一つである
   2、台湾は中国の不可分の一部である
   3、中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である

将来巨大なマーケットとなりうる中国に惹かれ、多くの国が、この概念の一部を「承認」した。
但し、全面的承認ではない。

<日本>
日本は「中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である」ことは承認したが、「台湾は中国の不可分の一部である」という原則には、「中国の立場を十分理解し、尊重する」とした。つまり「承認」ではなく、「あなたがいうことは理解し、尊重しましょう」ということだ。

<アメリカ>
アメリカも、「中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である」は「承認」したが、「世界に中国はただ一つである」と、「台湾は中国の不可分の一部である」については「認知する(Acknowledge)」とした。

つまり、後の二つについては「あなたがそう言っていることはわかりました」ということに過ぎない。
しかも、アメリカはその後「台湾関係法」を作り、台湾への武器供与を続けることを保証している。

にもかかわらず、多くの国は、台湾について語る時、「偉大なる・中華人民共和国」のご機嫌を窺いながら、腫物に触るような対応をしてきたわけだ。


4、 台湾孤立化を狙う中国と、反発するアメリカ

この数年、中国は「経済援助」など、金の力で、台湾と外交関係を保ってきたパナマ、エルサルバドルなどの中南米の国、また、ソロモン諸島やキリバスなど南太平洋の国々に「台湾との断交」を迫った。
「一帯一路」構想もこれに手を貸している。
多くの国が中国の「支援」を選んだことになる。
2019年9月21日、ソロモン諸島との「国交樹立文書」に調印後、中国の王毅外相は、「ソロモン諸島は台湾が中国の領土だと認めた」という発言すらしている。

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これにアメリカはイラついている。
中南米はアメリカの裏庭であり、そこに中国が接近し、「敵対的な国の軍事基地」を作られるような可能性は排除したい。キューバ危機の再来などもってのほかだ。

また、南太平洋諸国の位置はアメリカとオーストラリア、グアムなどを結ぶ地域にあり、有事の場合にアメリカとオーストラリアが連携し、戦艦の修理や補給をする道を閉ざしかねない。

貿易戦争、ハイテク覇権戦争の競争相手として中国を見ているアメリカにとって、中国の動きは「安全保障上の脅威」と映っても仕方がない。


何しろ、習近平国家主席は、武力を使ってでも台湾を併合すると豪語してきた。
また、今年に入って中国の航空機が何回も台湾側の防空識別圏に侵入するなど、挑発的な行動をとっている。

これに対しアメリカのトランプ大統領は「世界がコロナに目を奪われている間に中国は台湾を手にしようとしている」と非難している。

台湾は、もちろん多くの国と外交関係を持ち、世界の中で独立国として認められたい。そのための援助も行ってきたし、 WHOへの参加も希望している。また、アメリカとの FTAもその大事なステップだ。

クラフト米国連大使は16日、台北駐ニューヨーク経済文化弁事処(総領事館にあたる)の李処長と会談し、「台湾が国連にもっと関与できるようする方法を話し合った」

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アメリカは WHOにも台湾のオブザーバー参加を要請したが、中国の反対で実現しなかった。
世界で最も迅速、かつ効果的にコロナの感染を食い止めた台湾の知見は、 WHOを通し多くの国に共有されるべきものだったと私は思うのだが。


5、 米中冷戦の中で日本の取るべき道は?

「エルドアンのトルコ」(中央公論新社)で、私は、米中貿易戦争は、実はハイテク覇権戦争が背景にあり、徐々に安全保障を含む国家としての『覇権戦争』になる、との予測と、それに至る経緯を書いた。

トランプが大統領就任前に蔡英文からの選挙当選の電話を受け、しかも「蔡英文相当から電話が来た。ありがとう」と「総統」という国家元首に対する敬称を使ってツイートし、世界中に発信した事実は面白い。
これは、トランプは就任前から台湾との関係を深める意図があったことを示すのだから。

台湾をカードとして使うということは、最初から、中国と真っ向からやり合うつもりだったということだ。

何しろ、これまでのアメリカ大統領はニクソン以来、「台湾とは外交関係はない」という建前に縛られてきたのだから。

(この両大国の思惑を知りたいなら、どうぞ「エルドアンのトルコ」、読んでみてください。本の後半は、米中覇権戦争への行程と米中を軸に展開する今後の世界情勢を考えるためのヒントに満ちています!)

今、まさに米中覇権戦争が姿を現し始めていると、日々痛感する。
これが、どこまで悪化するのか?
いつまで、熱い戦争にならず「新冷戦」であってくれるのか、隣国日本にとっては重大な問題だ。

< EUの態度変化>
これまで中国に対して大切な経済的パートナーとして見てきたヨーロッパの態度も変化しつつある。

9月初めにはチェコのビストルチル上院議長が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。
これに対し、中国は報復を示唆。
その後、中国からチェコの企業を締め出した。

そのため、 EUの中国への態度は硬化した。

14日に行われた EUと中国の会談では、香港の人権問題への懸念が表明され、南シナ海でも国際法を守るよう、また、新疆ウイグル自治区への調査団を受け入れるよう求めたほどだ。
ハイテクに関しては、イギリスもファーウエイ排除を決めた。

日本はこれまでの、「前例主義」から一旦離れて、状況や歴史的経緯を再考して、新たな指針や態度を決めるべきではないか?
台湾は現在も、歴史的にも非常に親日の国である。

せっかく「官僚の縦割り」「前例主義」を改めたいとおっしゃる新総理が出てきたことでもあるし、日本と台湾の新しい関わり方を肯定的に考えなおす良い機会ではないだろうか?

6、 コロナ後の世界

どうせこれからは、前例のない事態が山ほど起こる。

新型コロナはその先鞭をつけてくれたが、米中新冷戦が米ソ冷戦と同じ形になるとは考えにくい。中国の周りに集まるのは「共産主義国家」ばかりではない。


中国はマスク外交やワクチン外交、戦狼外交で、協力国を増やそうとしている。特に経済力、技術力のない小さな国々がターゲットだ。


技術もどんどん進歩し、犯罪の質も変わっていく。日本はここで遅れを取ってはならない。
公官庁への連絡がいまだに FAXだなんて問題外だ。WiFiがこれほど使いにくい先進国はない。
「デジタル庁」には、日本の未来がかかると言っても過言ではない。きちんとしたメンバーを揃え、ぜひ、しっかりやってほしい。

国連も WTOも、今後力を失い、弱体化するだろう。
国際情勢は、流動的になり、『ジャングルの掟』が支配する弱肉強食のものになるかもしれない。
私たちは、「強いものが生き残るのではない。変化し、新しい環境にうまく適応したものが生き残るのだ」というダーウインの言葉を心に秘めておいた方が良いのだろう。

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これからの4連休、どうぞ楽しく、健やかにお過ごしください!😉💕


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