シュタイナー教育から学ぶ「情緒」の世界 〜絵本製作の舞台裏〜
こんにちは。SWC(Sloth with Creators)コミュニティメンバーのKaoriです。
現在、「情緒」をテーマにした絵本を製作中です。今回は、その制作過程でたどり着いた、シュタイナー教育の視点から見た「情緒」について、皆さんにお伝えしたいと思います。
絵本のテーマ「情緒」との出会い
前回の記事で述べたとおり、この絵本のテーマである「情緒」を選んだきっかけは、数学者・岡潔の言葉でした。(詳しくはこちらをご覧ください)
子どもたちに情緒とは何かを伝えるには、どのようなアプローチを取れば良いだろうか。その答えを探す中で、シュタイナー教育に辿り着きました。
シュタイナー教育における「情緒」
シュタイナー教育では、情緒を以下のように捉えています:
魂の一部
感覚と思考の橋渡し
意志と認識の中間
心的経験の源
発達段階との関連
芸術との結びつき
全体性の一部
ここで特に重要な点として伝えたいのは、2と3です。
「情緒は感覚と思考の間をつなぐものであり、意志と認識の中間に位置する」
これはどういうことでしょうか。わかりやすい例を挙げて説明します。
情緒のはたらき
わたし達は、外界からの刺激(感覚)を受け取り、それに意味を与えて思考へとつなげます。例えば、美しい夕焼けを見たとき(感覚)、その美しさに心を動かされ(情緒)、人生の儚さや自然の壮大さについて考える(思考)きっかけになるかもしれません。[感覚ー情緒ー思考]
同時に、情緒は私たちの認識と行動をつなぐ役割も果たします。前述の夕焼けの例で言えば、その美しさを認識し(認識)、感動する(情緒)ことで、「写真に収めたい」「誰かに見せたい」という行動(意志)が生まれるのです。[認識ー情緒ー意志]
つまり、情緒は感覚と思考の橋渡しであり、意志と認識の中間である、と言えます。
ここで一つ疑問が湧きました。上記の例で言うと、心を動かされる・感動することが情緒だということになりますが、「感動する=情緒」なのでしょうか?
情緒と感情の違いとは
情緒(emotion):
心と体の総合的な反応です。
例えると、オーケストラの演奏のようなもの。様々な要素が組み合わさって一つの経験を作り出します。
長く続く傾向があり、私たちの行動や思考に大きな影響を与えます。
例:「幸福」という情緒は、嬉しい気持ち(感情)だけでなく、体が軽く感じたり(身体反応)、前向きに考えたり(思考)、笑顔になったり(表情)することを含みます。
感情(feeling):
情緒の中の「感じる」部分です。
例えると、オーケストラの中の一つの楽器の音のようなもの。
比較的短期的で、すぐに変化することもあります。
例:「嬉しい」「悲しい」「怒っている」など、その瞬間に心で感じている状態を指します。
簡単に言えば、感情は「今、心で感じていること」で、情緒は「感情を含む、もっと大きな心と体の反応」といえるでしょう。
日常生活での例:
友人から素敵なプレゼントをもらったとき、
感情:「うれしい!」という心の動き
情緒:うれしい気持ち(感情)+ 体が暖かくなる感覚(身体反応)+ 「お返しをしよう」という思考 + 笑顔になる(表情)+ 友人を抱きしめる(行動)
このように、情緒は感情を含むより広い概念で、私たちの経験をより全体的に捉えたものだと理解できます。シュタイナー教育では、この総合的な情緒の働きを重視しています。
情緒を豊かにするためには?
先ほどお伝えしたとおり、情緒とは感覚と思考の間をつなぐもの。そして認識と意思の間にあるものです。情緒が乏しいということは、何らかの刺激を受けた状態で止まっている・何かを認識はしているが、その経験の豊かさや深みを十分に感じ取れていない状態といえるでしょう。
情緒を豊かにするプロセスは、外界から受ける感覚的な刺激をきっかけとして始まります。しかし、それだけでは不十分です。真に情緒を育むには、想像力を駆使し、自己との対話を重ねることが大切です。
想像力:感覚を超えて
外界からの刺激に対して、単に受動的に反応するだけでなく、想像力を働かせることで、その経験の意味や可能性を広げることができます。例えば、雲の切れ間から差し込む太陽の光を見た時、あなたは何を感じるでしょうか。多くの人は「天使のハシゴ」と呼びます。一方、宮沢賢治は「光のパイプオルガン」という表現を用いました(”告別”より)。これらは単なる細い光線という物理的現象を超えて、自らの想像力で新たな意味を付与した結果です。
このように、想像力を働かせることで、日常の光景も豊かな情緒体験へと変容させることができます。それぞれの人が持つ独自の視点や経験が、同じ現象に対しても多様な解釈を生み出し、そこから個性豊かな情緒が育まれていくのです。
自己との対話:心の声を聴く
情緒を深めるには、自分の内面に耳を傾けることが欠かせません。「この経験から、自分は何を感じているのか?」「なぜそう感じるのか?」と自問自答することで、自己理解が深まり、情緒がより豊かになっていきます。この過程で、時には予期せぬ感情や思考に出会うこともあるでしょう。それこそが、情緒が育つ瞬間なのです。
思考と行動:情緒が導く次のステップ
こうして育まれた豊かな情緒は、より深い思考へとつながり、さらには意思を持った行動を促します。例えば、自然の美しさに感動した経験が、環境保護活動への参加という具体的な行動に結びつくかもしれません。または、人との触れ合いで感じた温かさが、他者への思いやりを深める契機となるかもしれません。
情緒を豊かにするということは、このように感覚的な刺激を出発点として、想像力と自己との対話を通じて内面を深め、そこから生まれる思考や行動によって、より豊かな人生を築いていくプロセスなのです。
このように、情緒は単なる感情の動きを超えて、私たちの経験を深め、世界との関わりを豊かにする重要な役割を果たしています。シュタイナー教育では、この情緒の働きを大切にし、子どもたちが世界を全身で感じ、理解し、そして能動的に関わっていく力を育むことを目指しているのです。
絵本の特徴
まだ細かい部分は決まってはいませんが、最後に少しだけ絵本についてご紹介します。
対象年齢:4歳から8歳(そして大人)
テーマ:情緒
想像力を働かせ、自分の内面に意識を向ける重要性を伝える
あらすじ
『星のすろーすと光のしずく』
地球から遠く離れた、小さな星に住む、ナマケモノのすろーす。毎日が退屈でたまりません。ある日、不思議な光の妖精エルダーと出会い、驚きの冒険が始まります。
オーロラのように輝く草原、七色の虹がかかる渓谷、星々の輝く神秘的な洞窟...。美しい景色に出会うたび、すろーすは少しずつ変化していきます。この旅を通じて、すろーすは自分の中に「光のしずく」があることに気が付きます。
世界の不思議さや美しさに気づき、自分の心と向き合うことの素晴らしさを学んでいくすろーす。この物語は、子どもたちに情緒の大切さを教えると同時に、自分の中にある心の宝物を見つける喜びを伝えます。
あなたの中にある「光のしずく」に、気づいていますか?すろーすと一緒に、心の中の宝物を見つける旅に出かけましょう。
おわりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回はシュタイナー教育の視点からみた情緒について綴ってみました。情緒について改めて学んでみることで、今後の制作へはもちろん日々の生活にも活かしていきたいと感じています。次回の記事では、絵本の内容についてもっとご紹介できるようにがんばります!