創作はみんな最初は幻覚で成功したら芸術と呼ぶ
2023年3月10日、深夜のツイッタランドに生やした木のまとめ。発端は「ゼロを1にする一次創作と違って、二次創作は種になる一次創作があるんだからその分『ラクをしている』よね」という本当によくあるおっしゃりように深夜の当番が腹を立てたから。あのな、「ゼロを1にしているから二次創作者より苦労をしている」「二次創作者は元の1があるからラクをしている」とおっしゃるが、一次創作者とて完全にゼロから1を作り上げているわけではなく、先人が作り上げてきた作品の土壌から栄養吸い上げて自分の作品を作るんじゃ。それがわかっていれば「元の1があれば『ラクに』作れる。一次創作者はゼロから……」などとは口が裂けても言えんのじゃ。
以下、当時のまとめ。
たとえ本歌に使われる用語ひとつを使うだけで見る者に豊かなイメージを喚起できて「ラク」であっても、それでも「鑑賞にたえる『本歌取りの和歌』をつくりあげること」は「ラクではない」のだよと、当番は言いたいかな。たとえば「今年ばかりは墨染に咲け」から生まれた無数の墨染桜の和歌たちを見ると。
夜中にふと目をさまして、ふと見てしまったから言うのだけれどね。
和歌の本歌とその本歌取り作品ほどに古ければいいのか(令和の現在に至るまで「人の悲しみを反映して花までもが墨染に咲いてほしい」「花は墨染に咲かないのがこんなにもかなしい」と様々な感情を「墨染」ひとつに込めた新しい本歌取りが生まれるというのに)、ギリシャ神話ほどに古ければいいのか。
「ピュグマリオーン王とガラテアの物語を19世紀のロンドンへ持ってきたら」
「ロミオとジュリエットが20世紀のアメリカ移民だったら」
「もしも源氏物語を江戸時代の読者向けに翻案したら(柳亭種彦『偐紫田舎源氏』)」
「もしも源氏物語をヒロインの語りで一部再構成したら(瀬戸内寂聴『女人源氏物語』や田辺聖子『春のめざめは紫の巻』)」
「もしも源氏物語を光源氏の一人称で全編再構成したら(橋本治の『窯変源氏物語』)」
当番が愛してやまない、これら古典作品の素晴らしい翻案作品(当番が最も愛する源氏物語の翻案は『窯変 源氏物語』だ)以外にも光源氏、若紫というそれだけで元の物語を少しでも知る者に豊かなイメージを喚起させる二次、三次、四次作品は無数にあり。達人による傑作もあれば無名の駄作もあり。
そしてその駄作も含めた、無名のものも含めた沼の深みの中からこそ、神n次創作が蓮の花のように立ち上がり咲くことを一読者にすぎない当番でさえ知っている。花のごとき神n次作品のみが「あってよいもの」で汚く拙く読むにたえない翻案や本歌取りは「あってはよくないもの」であったら、蓮も咲かない。
沼の底の泥など誰の目にも不愉快なだけだ、花になれずに途中で折れ朽ちた茎など誰が見たいものか、あっていいのは咲くことに成功した大輪だけだと思われようとも。
「ゼロからひとりで構築するよりラクだから」「ゼロを1にするほうが1を2に、1を100にするよりも大変なのだから」と言われようとも。
「ゼロを1にした偉大な祖がいなければ、お前たち2や3は存在しえなかったのだから」と言われようとも。
それらすべてが事実であるのは百も承知で、全ての創作はあっていい。
あってわるいと、かんたんに言っていいものではない。
物語自体が「史実でもなければ真理でもないから、人の心を埒もない幻覚でいっぱいにして悟りから、進歩から遠ざけるからこんな絵空事は『あってわるい』ものだ、そんなものを読む者は邪悪で書く者は地獄行きだ」と言われたりしたことさえあるけれど(『源氏物語』蛍の巻で光源氏に物語を絵空事だと貶された玉鬘ちゃんが熱く反論する名場面を見よ)。
「紫式部はそうやって女子供から後には大の男までその壮大な幻覚で惑わしたから地獄へ落ちたのだ」という物語ができ。
そして「その地獄に落ちた紫式部の亡霊を弔い成仏させる」という物語ができ。
「いや、実は紫式部は菩薩の化身で、物語を通じて世の無常を教えにやってきたのだ」という物語ができ。
今日も沼の中にいて、かがやく蓮の花ですとは胸を張って言えないようなものをつるつると吐き出して当番は生きていて、同じ沼に咲く花のかがやきから、同じ沼の澄んではいないかもしれないけれど温かな水から、栄養を得てまた一日生きのびる気力をやしなっている。
創作はみんな最初は幻覚(わるもの)で、金になったら芸術(よいもの)と呼ぶ……というのはあんまりひどい話だよ。土星(けんい)を得られた海王星(ゆめ)だけが土星(げんじつ)の世界ではよいものだ、という価値観。
海王星(ゆめ)を土星(かたち)にして金星(おかね)や木星(めいせい)を得て月(せいかつ)を維持する人たちの権利を悪の海王星(あいまいなにせもの)の侵害から守ろうね、くりえいたーにしかるべき額のおかねを!という話も勿論、片一方には存在するしそれはそれでとても大切なのだけど。
当番、寝なさい