歯を抜きました
実は2月ごろから奥歯が痛かったんです。
親知らずを抜いたりして様子を見ていましたが、どうやら痛みの原因は歯が割れていたことだったようです。
(その前に書いた記事はこちら↓)
歯が割れていることに気づいたのは先月5月。
マウスピースを作るために型取りをしていたら意味不明なヒビがあり、そこで割れていることが発覚しました。
「もしかしてヤブ医者かなぁ?」
2月から毎月通っているのに、なぜ5月まで気づかなかったんだろう…。
でも、4月に撮った写真ではヒビはなかったんですよね。
うーん、分かんないけど、そんなこともあるんですねぇ。
これまでの人生で虫歯になったことがありませんでした。
「ヒビがあるので今日歯抜きますか?」
そのため突然の質問に動揺。
(歯ってそんなに急に抜いていいものなの?)
(永久歯って抜いたらもう一生生えないんだよね?そんな重大な選択はこの場ですぐにできないよね…)
ビビリな私は一旦、割れた歯と生きることにしました。
痛くなかったし、日常には問題がなかったからです。
しかし一週間後、その選択を後悔しました。
まず、気になって仕方がなかったこと。
舌で割れ目をなぞって「割れてるなぁ」を毎時間してしまうんです。
この確認作業は、生きる上のあらゆる行為の中でも、トップ級の不要な行為です。
歯の割れ目をなぞる行為…。
果たしてこれ以上の意味のない行為はあるのでしょうか…。
そして悲しいかな、その割れ目から異臭がしてきました。
食べかすがあるのか、台所の排水溝のような匂いを出しているのです。
「ごめん、めっちゃ口臭いと思う」
友人は笑ってくれましたが、夫はとても悲しそうな目をしていました。
好きな女性の口が臭い。
よくよく考えれば、夫には申し訳ないことをしました。
また歯茎が腫れ、痛くて口が開けられなくなったこともありました。
疲れでそうなったと思っていましたが、どうやら食べかすが歯の内部に入って腫れてしまったそうです。
「さっさと歯を抜けばよかったなぁ…」
この先の人生で、これほど次の歯医者を心待ちにすることがあるのでしょうか…。
先週やっと歯を抜きました。
私は自分の血液を見るのがとても苦手です。
採血をする時もいっさい注射を見ませんし、他人の採血も見れません。
しかし血まみれの歯を見ると、スッキリした気分になりました。
歯の真ん中ぐらいまで亀裂が入っており、歯の役割を全うしていたからかもしれません。
さようなら、私の永久歯。
部分麻酔をし、血まみれの歯を見ていた私。
平常だと思っていたけど、実は全然平常じゃなく軽いパニックだったようです。
それは帰ってから気づきました。
「歯茎の上にぷよぷよなヤツがいる…」
歯茎を触るのが怖くて歯医者では確認しなかったけど、傷口にぷよぷよした物体がいることを初めて知ります。
恐る恐る舌で大きさを確認。
え…。
思ったより大きいです。
「自分の歯茎から出てきたのかな…」
人体は、歯が抜けたら体液が出てきて歯茎を守るのか?!
身体には私の知らない回復機能が備わっているのか?!
それとも未知の物体…?
心臓バクバクでGoogle検索します。
調べたら、どうやら保険適用の傷口を防ぐやつらしいのです。
「自分の体液ではないんですね…」
とりあえず安心です。
そして落ち着くと、先生が何か説明をしてくれていた光景を思い出します。
このことを言ってくれてたのかなぁ…。
そして役目を理解できたら、もう私の身体の一部として受け入れられるように。
歯の割れ目をなぞっていたように、このぷよぷよした物体も舌で触りだします。
しかも歯を抜いて気づきましたが、私は無意識のうちに両頬の肉を吸っているようなのです。
その圧に押されるように、ぷにぷに感が頬や歯茎に伝わってきます。
そうです、とうとう存在感を主張してきました。
隣の歯よりも大きいあいつ。
ぷよぷよで血の味がするあいつ。
数十分前まで認識してなかったあいつが、私の中で大きな存在になってきます。
また無意識で頬を吸っていると、あいつの一部が千切れました。
血を吸って赤くなったぷよぷよの一部です。
「ふむ、あなたが歯茎の上にいるのですね。」
とりあえず眺めて体の一部の実態を認識します。
まぁ害はなさそうなので、完全に身体の一部として承認しました。
翌日も歯医者に行きました。
実は夜にも一部が千切れてしまい、ぷよぷよはとても小さくなっていました。
先生はあれば大丈夫だ、と言っていたので大丈夫なのでしょう。
しかし帰ってきて納豆巻きを食べていたら、ぷよぷよも一緒に飲み込んでしまいました。
「やべ、取れた…」
気づいた時にはもう手遅れ。
もうすでに、口内にあいつの姿はありません。
身体の一部として承認したあいつは、本当に私の身体の一部になってしまったのです。
次回の歯医者はマウスピースの型取りの予定です。
新しい歯はつけないのかなぁ。
ぽっかり空いた空間を愛でる人生になりそうです。