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引き出しの中の秘密

今はすっかり使わなくなった学習机の引き出しの上から二段目に、二冊のノートを収めている。

用心深く、鍵までかけて。

ノートの中身は一言で言うならば「名言集」。

誰かに見られて困るものではないけれど、何だかくすぐったくて、その存在について誰にも話したことはない。

小説のセリフ、歌の一節、先生や友達のひとことなど、ぐっときた言葉を書き溜めて、今年で十年目になる。

明日に向けて気合を入れたい日、もう今日のことなんて忘れてしまいたい日、そっと取り出して、ベッドサイドのオレンジ色の明かりを頼りにページをめくる。

全ては読めないので、適当に開いていくつかかいつまむ。

それでも時折、不思議なほどに「欲しい」言葉に出会うのだ。


人生に近道はない。あるとすれば、人一倍遠回りをすることだ

確か高校生の頃、休日にラジオを聞いていて出会ったひとことだ。

読めば天窓から入ってきていた太陽の光のまぶしさや、四月になろうとするのにあたっていたこたつの温もりまで蘇る。

まだ「遠回り」らしいことも経験していなかったであろう高校生の私に響いた言葉が、十年後の私を勇気づけていると思うと、何だか感慨深い。

このほかにも、温かく、思いやりに満ちた言葉が並ぶ「名言集」は私の宝物だ。


自分の周りの人は自分を映す鏡だ、という。

その言葉を信じるならば、こんなに温かな言葉をくれる人たちに囲まれた私の人生はとても恵まれている、と思う。

それと同時に、私もこんな言葉を言えるようになりたいとも思う。

ただ黙って隣にいるだけではなく、言葉で寄り添えるようになりたい。

なかなか難しいけれど、まずは相手の痛みを私なりに想像することから始めてみよう。


日々を乗り切る力を与え、行き先を示してくれる「名言集」。

自分を見失いそうなときには、これからも、何度でも、そのページをめくるつもりだ。

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