『中村屋酒店の兄弟』
冒頭、主人公ふたりが子供だった頃のラジオドラマが流れます。
暗いスクリーンを見つめつつ、聴覚だけが研ぎ澄まされ…
台詞とSEだけで、幸せなどこにでも居る家族の様子がありありと浮かんでくるーーー
その部分を入れても、1時間にも満たない作品です。
認知症のせいで、介護士だと思って接してくる母と二人暮らしで、父の残した中村屋酒店を守り生きている兄、弘文。
そこへ数年前に家を出ていた弟、和馬が帰ってくる。
変わらないままの店と、変わってしまったもの。
短いショットを差し込むだけで、観客の想像力や行間を読む力を信じてくれていると感じます。
何でもかんでも説明するのでは無く、まるで俳句のような世界観。
削ぎ落とした中に真実だけが残る、『映画大好きポンポさん』の哲学にも通じる、作り手と観客との信頼関係。
それを20歳そこそこの新人監督がやっちゃう潔さ。
絶望的な孤独、焦燥感、諦め、希望、再生等々のキーワードがたっぷりと散りばめられています。
それは監督の演者に対する信頼にも見て取れます。
台詞で説明させるのではなく、ふとした表情、ふとした息遣い、流れる視線、躊躇う指先。
藤原季節君目当てだったのですが、兄役の長尾卓磨さんの、佇まいだけで、長年認知症の母を抱え孤独に生きてきた悲しさが伝わってきて胸が締め付けられました。
「なに?」
「うん… ま、いいや」
そうやって色んなものを飲み込んできたんだろうな。
お兄ちゃん😭
そして、藤原季節君。
やっぱり上手いなぁ。
コメディもいけるけど、何かを背負った役すると本当に上手い。
ほとんど、このふたりしか出てこない映画ですが、このふたりでしか出せない雰囲気がありました。