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【試し読み】待望のラグビー戦術本『これまでになかった ラグビー戦術の教科書』から②

 3月30日から順次書店に並び始める、『これまでになかった ラグビー戦術の教科書』(井上正幸著)。今回は、発売に先駆けて第1章「ラグビーの戦術とはなにか?」より一部を公開いたします。みなさま発売をお楽しみに!!

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これまでになかった ラグビー戦術の教科書
著 井上正幸
ページ数 272
判型 四六判
本体価格 1700円
出版社 カンゼン
発売日 2020年3月30日

戦術とラグビーというスポーツの関係

 戦術とは「競技のルールから導き出される強い行動を基準として、自分たちの優位性を生かせる約束事をチーム内で共有する行為」だと考えています。

 ラグビーのグラウンドは、縦幅約100m 、横幅約70m 。サッカーやアメリカンフットボール、バスケットボールと違って前にいる味方にパスができません。
 そのルールの歴史的な背景には、ラグビー独特の価値観が存在します。

 ルールが成文化される1845年以前のラグビーは、ラグビーとサッカーが明確に区分されておらず、村同士で民族的ゲーム(フットボール)が行われていました。
 そこで行われるゲームはスポーツとはほど遠く、日常的に暴力行為が起きており、どちらかと言えばその暴力を楽しむ「祭り」のようなものでした。
 ここでのルールは「慣習」によって定められ、お互いの話し合いによって成立したと言われています。
 あまりの激しさに、その時代の権力者は何度も禁止令を出したほどでした。

 村の祭りとして行われていた「フットボール」の舞台は、のちに学校へと移ります。

 学校へと舞台が移ったフットボールは、「下級生いじめ(プリフェクト・ファギング)」の道具として使われます。その頃、イギリスでは、「狩猟」などの野蛮な遊びが横行しており、「脱野蛮化」として狩猟やフットボールを禁止する学校もありました。
 
 その頃、「下級生いじめ」の道具として使われていた「フットボール」をイギリスのラグビー校校長のトーマス・アーノルド氏がジェントルマン教育に利用します。
 アーノルドは狩猟を禁止する代わりにフットボールを認め、そして、「プリフェクト・ファギング」と呼ばれる下級生いじめをやめさせる手段として、プリフェクト(級長)に権限を与えることで、彼らによる「統制的自治」という形を取らせたのです。
 アーノルドは、チームゲームの「人格統制」の効果を期待して、フットボールを推奨したと言われています。

二つの禁止行為がフットボールをサッカーとラグビーに分ける

 18世紀半ばから19世紀にかけて、イギリスで産業革命が起こり、鉄道が走るようになると、色々な地域から大学に進学することになります。
 そこで、地域単位の慣習で行われていたフットボールのルールを統一する必要が出てきました。

 ここで焦点になったのが二つの行為です。
 一つ目は「手の使用を認めるかどうか」ということ。二つ目は、「ハッキング」と呼ばれる行為でした。

 この時代のフットボールは、ラックのような塊の状態がたびたび起こり、その中にあるボールを蹴りあって塊からボールを前に出し、相手のゴールを目指していました。
 塊の中での肉弾戦は怪我も多く、先端に鉄片を取り付けた靴で蹴り合うため、すねを骨折する選手もいました。
 そして、このすねを蹴る行為は「ハッキング」と呼ばれ、その蹴り合いに参加することが「勇敢さ」の象徴とされていたのです。
 しかし、その塊でボールを蹴り合う行為に参加せず、塊の前でボールが出てくるのを待ち、出てきたボールを蹴ってゴールを狙う「待ち伏せ行為」をする選手が出てきました。そのため、その選手を「卑怯者」として罰するルールの「オフサイド」が生まれました。

 この二つの行為を容認しないグループが、1863年に「association football」を創設します。略して「soccer」と呼ばれるようになりました。
 のちにラグビーでも「ハッキング」は禁じられますが、遅れること8年後の1871年に手の使用やハッキングを認めるグループによって「rugby football union」が創設されます。

 サッカーは人間の最高器官である「手」の使用を禁ずることで、「不条理な状況下の自己統制」を競技に求めたのに対して、ラグビーは人間の機能に制限を設けませんでしたが、自らの意思によってフェアにプレイするといった「自由な状況下での自己統制」を競技に求めることになりました。 

 これらが背景にあり、二つの競技の「オフサイドルール」は、おのおの全く違ったものになっていきます。
 サッカーは、「ハッキング」を禁じたことで密集が存在しなくなり、「待ち伏せ行為」の問題については、「防御側の最後尾の選手より前で待ち伏せできない」というルールを設けることで解消されました。
 ラグビーは、「ハッキング」こそなくなりましたが、「男らしさ」の象徴である密集における「肉弾戦」は残りました。一方で「待ち伏せ行為」はグラウンド全般で禁止となり、その結果、「ボールより前でプレイできない」としたルールが生まれました。

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著者プロフィール

井上正幸(いのうえ・まさゆき)
オーストラリアラグビーコーチング資格レベル2保持。大東市立住道中学校でラグビーを始め、大阪府立大東高校を経て大阪体育大学に入学しラグビー部に在籍。大学卒業後、整形外科のインプラントを販売する会社「オルソテック(株)」に勤務する傍ら、2008年から兵庫医科大学でコーチを始め、09年西日本医科学生総合大会4位、11年関西医歯薬学生ラグビーフットボールリーグ2位、12年同大会3位、13年同大会2位の成績を収める。14年に京都成章高校スポットコーチとして、全国高校ラグビー大会4位、15年同大会8位、16年大阪体育大学スポットコーチとして、関西大学ラグビーBリーグ優勝、17年ヘッドコーチとして同リーグで優勝。入れ替え戦にも勝利してAリーグへ昇格させた(2019年に退任)。著書に『ラグビー3カ月でうまくなる基本スキル』(学研)がある。

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シリーズ第2弾が発売決定!!

試し読み①はじめに

試し読み③第1章「ラグビーの戦術とはなにか?」



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