絶命モニター
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って工事みたいな音でパッと意識が明けるや否や激痛とともにブンとシャットダウンするパソコンのように落ちた。
『絶命モニター』ってネームシールが薄型テレビの下に貼ってあって、それが至近距離目の前にあって、僕の背後にも点々と3、4人が座っていて、そのモニターを見ているのかどうかはわからない。
なんでこんなにサウナみたいな個室なのか?
サウナとの違いは暑くないのと、服を着ていること。
服っていうのは絶命時の服なので、部屋着の上下モコモコのグレーなのだが、絶命モニターにはそれが見えていない。
布団で仰向けに寝ているから。
電気を消していたので真っ暗のはずだが、暗視カメラ?なのかなんなのか、粗いドット混じりで、自分が仰向けで寝ている定点映像が流れている。
ふすまの開く音がして、画面右側から息子が小走りでフレームインしてくる。
手にはおもちゃの拳銃のようなものを持っている。
小走りの勢いのまま寝ている僕の足を華麗に飛び越える動きを3往復したあと、ピタッ、と静止し、おもちゃの拳銃をじっと眺めて何かを考えている様子…
拳銃の先には尖ったものがついているのがそこで初めてわかった。
静止状態から動き出したかと思うと、仰向けで寝ている僕の額にその尖った先を突き付けて、さっき聞いた音が耳をつんざき、思わず目をギュッとつむる。
目を開けると、絶命モニターの画面が真っ青になっている。
恐る恐る額に手をやると、小さな穴があいている。
息子が自慢げに持っていたのは電動ドリルだった。
昼間にネットで買ったキッチン棚を組み立てているのを指をくわえて見ていたが、そのときはドライバーとして使っていた。
アタッチメントを穴あけドリルに付け替えてしまったのか。
これは事故である。
事故。
子どものやったことである。
ちょっと無しにしてもらいたい。
自分がいないと無理なのである。
むかしクレヨンしんちゃんが寝ているひろしの眉毛を剃ってしまって味付け海苔をはっ付けるってのをアニメでやっていたけど、それと何が違うんだ?
ひろしは生きていて、僕は死んでいる。
不公平ではないか?
全く同じ程度の子どものイタズラで、なぜ僕だけが死ぬ。
無し無し。
妻は息子に告げないだろうが、隠しても絶対に知ることになるいつか。
そのときにいらん罪悪感なんかいらん!
え?
はい
あ
こっちですか?
なんか奥の部屋に通された。
サウナみたいな部屋から出て右右奥。
案内人?のスーツの男が、カードキーをかざして重厚な扉を引いて開ける。
中に通され、ドラマの理事長室みたいな向かい合いソファに座らされ、そのまま女理事長みたいな人が向かいに座る。
出された紅茶に口もつけないうちに、さっきの絶命シーンを教習ビデオにしたいという話をされている。
てっきり「無し」にしてくれる話かと思っていたので、もう下を向いて聞いていない。
「まぁまぁまぁ、子どものやったことですからね」
って第一声を期待していたのに。
紅茶の味がしない。