鳥居、くぐれない
救いを求めてやってきた。
劇場版トリックに出てくるような山奥の山奥の山奥。
死ぬかここに来るか、って感じになっていて、母親の親戚のおばさんがこの宗教団体に入って母親含めその人を知る全員が「あの人はおかしくなった」「あの人と関わらない方がいい」と口々に言っていた。
けど、実際、そいつらの誰よりも、豪邸に住んで、海外旅行に行きまくってるのは、その宗教に肩までいや脳天まで使ったおばさんなのである。
じゃあ金だけ減っていくやりたいことと求められていることの乖離に悩ませ続けられるだけの舞台俳優と言い張っているだけの自分がここに来るのは必然だった。
2300円の公演に客がゼロでそう決定した。
6000円で客ゼロだったら来てないよ?
2300円だったので来た。
もう無理なのだ。
「入信には通過儀礼がございます。通過儀礼という名の適正試験です。お送りしたパンフレットはお読みになりましたか?」
これまた劇場版トリックに出てきそうな紅白の袴を来た除霊師みたいな背筋が伸びているだけのおばあさんが言ってくる。
「あ、はい、読みました」
「禁忌はなんでございましょう?」
「えっと、あれですかね、…鳥居?をくぐってはいけない?」
「そうでございます。それだけを守っていただければ、あなたが求める全ての幸福を差し上げましょう」
「えっと、全ての幸福っていうのは…?」
「なんでもいいですよ。お金でも家でも、まぁ、要相談ではございますが、基本的には❝与える❞でやっておりますので…」
「与える、ですか…」
「では、通過儀礼、スタート」
ピーーーーーー!!
「えっ」
おばあさんが胸元から紐で繋がったホイッスルを出して吹いた。
「うわっ」
体がよろけてなんとか倒れずに済んだかと思いきや、動く歩道のように地面がゆっくりと動いている。
ただの土の地面にベルトコンベアが仕込んである?
後ろを振り返るとさっきのおばあさんがニコやかに手を振っている。
進行方向に向き直すと、遠くの方に赤いものが見える。
それがどんどん近付いてくる。
自分が近付いていっているのだが、それが鳥居だと分かった。
同じベルトコンベア上にあるはずなのに、なぜ鳥居が大きくなるんだ?
同じ速度で動いているなら大きさは変わらないはずである。
そうこう考えているうちに、あと数秒で鳥居とすれ違う距離まで来ていた。
実際の大きさは人が横並びで2人通れるくらいの小ぶりの鳥居だ。
『禁忌:鳥居をくぐってはいけない。』
なるほど、と思い、スッと左にずれて、鳥居をくぐらずに避けた。
すれ違った鳥居はどんどん小さくなっていく。
柱の足元を見ると、少しだけ宙に浮いている。
どういう原理で浮いているのだ?
「あーわっ!」
再び前を向くとマジで目と鼻の先の距離に鳥居があって慌てて右に避けた。
柱が左腕にちょっと当たって痛かったが、なんとかくぐらずに済んだ。
いつのまに現れた?
っていうかこの痛さ、スピードアップしてるな。
やはり、遠くに見える鳥居が大きくなる速度がアップしている。
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右に避ける。
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左に避ける。
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左に避ける。
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右。
⛩
左。
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右。
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右。
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左!
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左。
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右。
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左!
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右 右 右!!
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左 左!
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左。
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右 右 右 右 右!!
⛩⛩⛩⛩⛩
左 左 左 左 左!!
⛩⛩⛩ ⛩⛩
右 右 右!
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止。
⛩⛩⛩ ⛩
止。
⛩
右。
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右。
⛩⛩⛩⛩⛩
左 左 左 左 左!!
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右 右 右 右 右!!
⛩⛩⛩⛩⛩⛩
左 左 左 左 左!!
「えっあっ」
気が付くと、左端の鳥居をくぐっていた。
♪ブブーー!!
どこからか、けたたましい失格音が鳴った。
「いやっ!ムリゲーじゃないですか今の!!だって鳥居6つ分の幅しかないベルトコンベア上で!!鳥居6つともいっぺんに来たら避けれないでうわーーーーっっっ!!!」
ベルトコンベアが超高速逆走して、急停止した。
「柱にしがみつくことですよ」
尻もちをついた状態でゲロ吐きそうで顔をあげると、さっきのおばあさんがのぞき込んでいた。
「柱にしがみつく…?」
「鳥居の柱にしがみついてここまで戻ってきた者だけが、入信できるのでございます」
「なんですかそれ?初見殺しじゃないですか」
「殺さないので安心してください」
「いや、そういう意味……え、じゃあもっかいやらせてください」
「もっかいとかは、ないです」
山を下りながら、考えた。
生きることがそもそも初見殺しなんだから、適当にやっていく。
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