鮎取り
あれは小学2年の夏休み。おとんの実家の田舎のそばに川があり、よくそこで鮎(あゆ)取りをしていた。銛(もり)で鮎を突くのだが、その際はゴーグルをつけて頭を膝小僧くらいの深さの川に突っ込み、とにかく鮎めがけて銛を突き刺す!鮎は(というか魚は)素早いので一回も成功した記憶がない。ぷはぁと顔を上げると、おとんが何か僕の方を見ているのが見えた。ゴーグルの水滴で視界はぼやけているが、僕の顔ではなく一つ上を見ているのがわかった。
「なんやこれ?」
「え?」
「なんか頭に乗っとんぞ」
おとんは僕の頭の上からそのなんかを取って僕に見せた。
「パイの実やん!」
「パイの実?あーあのお菓子のか」
「なんで!?」
「パイの実かこれ?」
「いやパイの実やって!食べたろか?」
「あかんわ、こんな汚い」
「え!ちょっと!」
ふと辺りを見渡すと、パイの実がところどころに浮かんでいることに気付いた。さらに川の上流の方に目をやると、そのところどころの密度が多くなっているように見えた。
「これもしかして、上の方で子どもでも溺れてるんちゃうか?」
おとんはそう言うと、バシャバシャとパイの実の密度の多い方へ歩き出した。僕は慌ててそれについて行った。しかしその歩みはそこから10分15分と続き、とうとう僕は疲れ切ってしまい、歩くのをやめた。
「おとーーーん!もうええやーん!ここおるでー!」
僕は川から出て、川の上にかかっている小さな橋の欄干に腰掛けて、小さくなっていくおとんを見ていた。
「ゆーすけー!」
その声に、いつの間にか寝てしまっていたことに気付いた。西日が眩しくて、声のする上流の方に細目を凝らすと、おとんが手を振っている影が見えた。隣には小さな子ども?の影も。2人が1つのなんかにしがみついている。でっかいパイの実だった。おとんと4才の女の子と僕とで山道を歩いている途中で、僕もおとんも銛を持っていないことに気付いた。
「もり?」
女の子は首をかしげていた。