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枕の試着

「この枕って、試着、っていうか、なんて言うんだろう?えー(笑)」

 「お試しできますよ、よいしょ!」

その華奢な女店員は試着室を持ち上げて縦から横にした。

横持ちで撮った写真が横向きになってなくてカメラロールで編集するそれのように。

一瞬の出来事に固まっていると、

 「どうぞ、ごゆっくり」

と促されたので、身をかがめて自販機の下に落ちた小銭に手を伸ばすように横向き試着室に入室した。

通常時の縦の時と違い、横の今はカーテンが【重力で】落ち閉まっているので、シャッターのように持ち上げてくぐる形で入室する必要があるのである。

 「あっ、大事なものお忘れでしたね(笑)」

「あー、はは(笑)」

カーテンが持ち上がって「大事なもの=枕」が入室された。

ミスチルで言うところの「半信半疑=傷つかないための予防線」が入室されたのである。

カプセルホテルには泊まったことがないがカプセルホテルの出で立ちになっていたであろう試着室が、枕の合流によってたったいま完成された。

 「ごゆっくりどうぞ〜」

ごゆっくりっつったってこんなイレギュラーな状況でなにをど………………

「…

 ぐ〜


 …


 ぐ〜


 …


 ぐ〜


 …


 ぐ〜


 …


 紫キャベツ…


 ぐ〜


 …


 ぐ〜


 …


 ぐっ


 …


 …


 …


 …


 …」

 「お客様!」

「…


 ぐ〜」

 「あーよかった」

「ぐ〜


 …」




「すみません、めっちゃ寝ちゃいました」

「すごくお似合いでしたよ」

「あ、ありがとうございます」

「寝言までおっしゃってましたし」

「えー恥ずかしっ、なんて言ってました?」

「紫キャベツとおっしゃってました」

「あー(笑)、さっきなんか、1階の八百屋さんで、キャベツだけ迷って買わなかったんですよ、それかな」

「はは、そういうのありますね(笑)」

「(笑)いやぁ、すみません、ありがとうございました」

「いえ、お疲れ様です」

「これちょっと考えます」

「なんっでやねん!!」


デパートの外に出ると真っ暗で、とっくに終電がなくなっていた。

そらそう言うわな。

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完熟トマト新聞
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