はややのおっさん
小学生になってるかどうかみたいな子どものときに、近所の社宅に住んでいる友達と2人、その社宅の前の畑で、遊んでいた。
良くないのだが、あんま良くないという分別もつかずに遊んでいた。
「はやや!はやや!」
声の方を見ると、畑の中ほどからこちらへ向かっておじいさんがドカドカ歩いてくる。
畑仕事の格好をしているのでこの畑の持ち主だということがひと目で分かった。
ひどく怒っている。
「はやや!はやや!」
僕らはいちもくさんに逃げた。
その日からというもの、ことあるごとに僕とその友達は「はやや!はやや!」とマネをして笑っていた。
当時もそういう推理があったかどうかは覚えていないが、おそらく歯が抜けていたので、「入るな!入るな!」と言っていたのだと思われる。
と、思っていたのだが、ふと35になった先日、Google検索で
はやや
と入れてみたところ、
早野宏史
がヒットした。
68歳のサッカー解説者らしい。
この人の愛称が、『はやや』なんだとか。
なんとなく、当時はややのおっさんに「はやや」を浴びせられた唯一の友達に連絡をしてみた。
会うのは高校ぶりなので、20年ほどぶりに会うことになる。
15分遅れて、通っていた小学校前にやってきた彼は、すごく見覚えがあった。
初めて会った気がしない…と言ったら当たり前だが、何か変だ。
早歩きで向かってくる彼の顔が近付いてくる。
あ。
早野宏史だ。
早野宏史そのものじゃないか。
こないだ検索して見た早野宏史と同じ顔をしている。
はややのおっさんは、あの少年にこの顔立ちを予知していたのだろうか?
「はやや!はやや!」
「はやや!はやや!」
あの頃のように笑い合ったが、面白がっているポイントが違っていた。
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