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【感想】演劇企画団体 7millions 『アナタノミカタ』

人間模様の闇鍋

いろんな意味でお腹一杯になる物語だった。
日常なのか非日常なのか、
コメディなのかサスペンスなのか、
優しさを描いているのか狂気を描いているのか、

それらが判別できないほどに多くの人間ドラマが詰め込まれ、作品全体が闇鍋状態になっている。
これを面白いと感じるか否かは分かれるところだろう。
しかし、「見応え」としてはじゅうぶんだ。

作りがしっかりしているだけに、細かいことが気になってしまう。

まず、冒頭である人物の苦悩が描かれるが、令和の時代に似つかわしくないステレオタイプな演出にちょっと驚いた。
「精神世界のような空間で複数の人物が何かを言い、その中心でメインキャラが頭を抱えて発狂する」
観劇経験者なら必ず観たことのあるシーンだろう。
こんな何億回も擦られてきた演出、もうやめにしないかい?

舞台美術は非常に作り込まれている。しかし、「リアルなセット」に手を出したばかりに落とし穴にハマっちゃってる。リアルに作り込むからには、ちゃんと細かいところまで作らないと、逆に安っぽくなり、不自然さが目立つのだ。
例えば、「廊下が狭すぎる」とか、「家具が少なすぎる」とか、「日本家屋の構造じゃない」とか、「なんで壁の色が一部分だけ違うんだ」とか、こういうところが気になってくるのだ。
私はまず、「玄関そっちなん!?」と感じてしばらく話が頭に入ってこなかった。これなら抽象的な美術にしといたほうがマシだ。

あと、説明台詞も随所で気になってしまった…。
独り言で「倫子ちゃんち初めて来たけど、変なおうち…」とか言っちゃいけない。そんなのはト書きに書くだけにして、役者の演技で表現しなくちゃいけないよ。

発想や着眼点が非常に面白い

HSPやエンパス体質の人がもつ能力を活かして、困っている人を救うという発想は非常に興味深かった。倫子の思惑はビジネスとは別にあったようだが、だからこそ、序盤の「洗脳」とも言える展開が説得力を持ってくる。
この作品は、「ルームシェアの家で巻き起こるドタバタ劇」などという生半可なジャンルには決して収まらない。
倫子という一人の人物に、仕事や私生活をムリヤリ放棄させられた男女が、一つ屋根の下で共同生活を強いられる。しかも、集まった男女は皆いい歳なのに、どこか抜けていて馬鹿っぽく描かれている。だからこそ倫子の「洗脳」が効いてくるのだ。普通ならこんな理不尽な状況、秒で逃げ出す。
しかし男女らは大した疑問も抱かず、のほほんと一つ屋根の下で暮らし始める。ここまでの流れが割とコミカルに描かれているが、冷静に考えて非常に恐ろしい展開だ。なんなら途中で帰ろうとする男性を、他の皆が引き止めるような空気も生まれる。
倫子は見事に、彼らをマインドコントロールしているのだ。
このように、コメディとシリアスが隣り合わせで展開していく物語を描けるなんて凄い。

人間愛を描きすぎたあまり、ごちゃ混ぜ感が出てしまっただけ。

この作品は、作家の人間愛に溢れている。登場人物一人一人をちゃんと丁寧に描いたからこそ、このような闇鍋状態になっただけなのだ。
カオスな舞台に見えるが、人物みんなのバックボーンがきちんと存在している作品というのは、やはり説得力があるし、グッとくるものがある。
この作品に、悪い人は出てこない。みんな自分の価値観に沿って生きているだけだ。
作家の鷲尾さんが描きたかった世界は、そんな素直な人間たちの本気のぶつかり合いだったのだと私は感じた。

しかし、やはり随所に「人が洗脳されていく様子」ともとれる描写があり、私はずっと恐怖していた。
まともそうだった主人公の妹までいつのまにか寝泊りしてるし、いじめられた人物が積極的にいじめっ子を許そうとしていくし、だんだん感情の暴露大会のようになっていくし…。
私は途中で、この作品は「とある宗教施設の内情」を描いているのか?と思ったほどだ。(そういう話ではなかった)

ツッコミどころもあって無茶苦茶なストーリーだが、ここまで人間ドラマを深堀りし、真正面からぶつかり合わせた脚本は見事だと思う。
しかし、演劇作品として観た時、問題の何もかもを台詞で解決してしまっているのは残念だった。何とも説教臭くなってしまっている。
それに、良い大人が全員、感情を全て言葉に出してぶつかり合うのを見せられ続けるのは正直しんどい。もうちょっと理性的な人間は出てこないのか!と思うが、この家の中では皆が解放的になっているからどうしようもない。

文句ばかり言って大変申し訳ないが、最後にもう一つ。
全員の抱える問題が180度良い方向に切り替わるのも疑問だが、それよりも多くのツッコミどころを残して強引にハッピーエンドに持っていくのはいかがなものだろう。
「新種のマリモを捕まえるために死んだ」なんて、誰が納得するというのだ。観客を舐めてはいけない。(そもそも観客はゴロー先生の死因とかそんなに気にならない)
まあ、これはこれで、劇中の設定としては「より強固な洗脳施設の完成」というエンドにも受け取れなくはないが。

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