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「痴」(番外編)~「痴漢」と「ブタの手」
「痴漢」は日本語である。
中国語で「痴漢 chī hàn」と言えば「おろかな男」という意味で、セクハラの意味は特に無い。
では、セクハラの痴漢は中国語で何と言うか?
公式には「性騷擾 xìng sāorǎo」と言う。
俗語では「咸猪手 xián zhūshǒu」と言う。もとは南方方言だったらしいが、今では全国区になってメディアでもごく普通に使う。
「咸猪手」は、直訳すると「しょっぱいブタの前足」であるが、これはもともと料理名だ。
「咸」(または「鹹」)は、「塩辛い」という意味で、塩漬けや醤油煮込みのことを言う。
「猪」は、イノシシではなく、ブタのこと。
「手」は、ブタだから前足のことである。
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では、なぜ「しょっぱいブタの前足」が痴漢になってしまったのか?
実は、「咸」の文字は、俗語では性的な意味合いで用いられる。
「いやらしい」とか「エロい」とか、下品なニュアンスがある。
広東語で「咸濕 haam4 sap1」と言えば「スケベ」のこと。
「咸片 haam4 pin2」と言えば「ポルノ映画」のことだ。
なぜブタなのかは、容易に想像がつく。
ブタには気の毒だが、ヒトは古来ブタにはあまりいい印象を持っていない。
ブタは、のろまで怠け者、泥まみれ、欲望まみれのイメージがある。
『西遊記』の猪八戒は、もともと天蓬元帥という神将だったが、酔った勢いで嫦娥(月の女神)に手を出して天界から追放され、下界に降る際に誤って雌ブタの胎内に入ってしまい黒豚の妖怪になった。
「西天取経」の道中では、好色ぶりを存分に発揮する。たびたび女の妖怪に誘惑されたり騙されたりして三蔵に叱られ、悟空が尻ぬぐいをしている。
なぜ「手」(前足)なのかは、説明するのも野暮だが、おさわりの行為が手で行われるからだ。
さて、記事の冒頭で、「痴漢」は日本語だから中国語では通じない云々、と述べたが、実は、一部の中国人には通じてしまう。
文明開化以来、日本から中国に逆輸入された和製漢語は膨大な数に上る。
中には、「漫画」「温泉」「居酒屋」「宅急便」「便当」「宅男」など、
日本独特の文化を反映したものも多い。
「痴漢」も、SNS やサブカルを通して、中国語として市民権を得つつある。
はて、「痴漢」も日本の文化か、と思うと甚だ不名誉なことではある。
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