煎じ薬は浪漫です
煎じ薬は漢方家の浪漫です。
静岡県民なら誰もが知っている漢方薬局荷居屋(にいや)のCM。実は私もこのCMのイメージに引っ張られて漢方始めました。
荷居屋は静岡を代表する長寿ローカルCMです!怪しい木を刻んで薬研(やげん)でゴリゴリ・・・あんなことをしているの?今の漢方って違うよね??そう、今の漢方薬局ではあの荷居屋のCMのようなことはもちろんしていません。
薬研、やげんと読みます。漢方なぞ道具の一つ。
今日は漢方薬の剤形(薬のスタイル)のお話です!
昔ながらの漢方薬は主に3つの剤形(薬のスタイル)があります。それは、煎じ薬・散剤・丸剤です。
生薬を水に入れて長時間煮込んで、その煮汁を飲む。これが煎じ薬、the 漢方という感じで時代劇にもよくでてきます。葛根湯や小建中湯など、"湯”で終わる漢方薬はもともとはこの水で抽出する煎じ薬です。胃腸にも負担が少なく、効果も比較的早く出ると言われていますが、およそ小一時間煮込むので手間がかかることと、薬によっては味がごまかせないので今では敬遠されがちです。
次に散剤。散剤は加味逍遙散や防風通聖散などが"散"で終わる薬が代表です。煎じ薬は煮出すのに対し、散剤は荷居屋のCMでおじいちゃんが作っていたように、薬研などを使用して生薬を細かい粉にします。散剤は味は煎じほど直接的ではないですが、かなり生薬を細かく砕かないと喉につまるので、調整が難しい薬です。今は粉砕機があるのですぐに作れる・・・ようですが、生薬によっては粉砕機によって発生する熱で成分が壊れてしまうため、やはり簡単には作れません。
丸剤は八味丸、麻子仁丸などがあります。散剤同様細かく粉状にした生薬に蜂蜜などを加えて練り、丸い粒状にします。上記にあげた煎じ・散剤より携帯が簡単なこと、蜂蜜などを添加するため味が優しいことがメリットです。
コーヒーに例えると
煎じ薬はドリップコーヒー
散剤はコーヒー豆を粉砕して粉にしたもの
丸剤はコーヒー豆の粉を蜂蜜で丸めたもの
というようなイメージです。
長時間煮るのが大変なら、葛根湯も粉にしたら?味が苦手なら丸剤にしたら?という声が聞こえてきそうです。
が、漢方薬はあくまで伝統的に伝わっている方法で服用することが推奨されます。
というのも、煎じではお湯で抽出することができる成分だけを飲む薬、散剤は逆にお湯で煎じて抽出できない成分も飲む必要がある、また丸剤では蜂蜜などの賦形剤も薬の効果を正しく働かせるために欠かすことができないと考えられています。まじか?と思いますが、どの成分がどんな効果をだすのかまだ完全に解き明かされていない漢方薬は伝統的な方法で服用するのが一番良い、また漢方薬の微妙なバランスを整える力は余分なものを加えないで作らなければ本来の効果が出せないなどと言われています。実際、臨床で漢方薬を扱う先生はやはり古典に記された服用法が一番手応えがある、とお話しされます。
しかし最近ではアルミシートで包装された漢方薬なら使ってみたことがあるという方が多いのではないでしょうか。
今主流のアルミシートに入った粉の漢方薬は”エキス剤“と呼ばれています。エキス剤は保管が簡便で手に入りやすく、味も比較的マイルドで現代の漢方薬普及には大きな役割を果たしています。
エキス剤はコーヒーに例えるとインスタントコーヒー。煎じのように抽出した成分を煮詰めて作ります。エキス剤は飲みやすさや溶けやすさ、保管のしやすさなど考慮されているので本当に便利が良く、現代の漢方薬の広い普及はこのエキス剤のおかげといえます。しかし、多くの賦形剤を使っていることと、散剤のように水で抽出できない成分までとりたい方剤では効果が完全に出せないといわれています。エキス剤はとても便利ですが、なるべく余計な物をいれていない、もとの薬に近い物を選ぶことが大切です。
以上のことから、私も余裕があれば煎じ薬を初めとする伝統的な手法で調整された漢方薬をおすすめしています。ただ、それはそうとたくさんの生薬がつまった瓶の並びをみるとふつふつと子どもの頃に胸に抱いた漢方への憧れを思い出します。
煎じ薬は、漢方家の浪漫です。