ムツでないのにムツを名乗る魚たち
ムツは東北地方から九州地方まで広範囲に生息しています。
そのため各地で呼び名が異なります。
カラス、カッチャム、モツ、クロッポ、ツノクチなどです。
「オンシラズ」という面白い呼び名もあります。
子どもは浅瀬にいて、親は深海にいるからです。
ともに暮らさないので「恩知らず」です。
仙台では、ムツと呼ばず「ロクノウオ」と呼んでいます。
仙台藩主の伊達家が陸奥(むつ)守だからです。
ムツを食べては陸奥守に申し訳ありませんので、
ムツ(六つ)をロク(六)に置き換えました。
標準名のムツは「むつこい」に由来するそうです。
四国地方や中国地方の方言です。
味が濃い、味がしつこい、脂っこいといった意味です。
「むつごい」「むつっこい」とも言うそうです。
たしかにムツは脂の多い白身魚です。
「むつこい」と感じるのかもしれません。
料理方法としては、煮つけが最も向いています。
粕漬け焼き、味噌漬け焼きにも合います。
寒い季節に旬を迎え、脂もいっそう乗ってきます。
冬の「寒ムツ」はたいへん美味しいです。
ところで、ムツはもちろんムツ科の魚ですが、
ムツ科でない魚もムツを名乗ることがあります。
たとえば、「アカムツ」はスズキ科に分類される魚です。
別名「のどぐろ」として知られています。
むしろ「のどぐろ」の呼び名の方が知名度は高く、
アカムツでは通じないことがあります。
「シロムツ」は、「オオメハタ」のことです。
目の大きなハタという意味です。
ハタの仲間ではなく、アカムツの仲間ですが、
市場に出回ることはほとんどありません。
「ギンムツ」は、「メロ」のことです。
正式な和名は「マジェランアイナメ」といいます。
マゼラン海峡のアイナメという意味ですが、アイナメ科ではありません。
もちろんムツ科でもありません。
メロは昔からギンムツという名前で親しまれてきました。
「ギンムツの西京焼き」という料理名は今も使われています。
ところが20年ほど前に流通名をメロに改名しました。
本家のムツと混同してしまうからです。
ムツ科でないのにムツを名乗る魚たちが多いために、
ギンムツもムツ科と勘違いされる恐れがあります。
その混乱を避けるために、法律まで改正されました。
メロをギンムツとして売ることが禁止されたのです。
しかし、ギンムツとして売ることは禁止されましたが、
ギンムツと呼ぶことまでは禁止されていません。
料理の本やウェブサイトでは、相変わらずギンムツと呼んでいます。
あるいは、メロとギンムツを併記して紹介しています。
赤、白、銀ときましたので、次は黒ですが、
「クロムツ」は正式なムツ科の魚です。
ムツ科に属するムツは、「ムツ」と「クロムツ」の2種類だけです。
それ以外のムツを名乗る魚たちはムツ科ではありません。