バジルとバジリコ
バジルとバジリコは同じ植物です。
英語ではバジル、イタリア語ではバジリコといいます。
熱帯アジアを原産とするシソ科の香草です。
アレクサンダー大王がインドから持ち帰ったという説があります。
ヨーロッパ、とくにイタリアで最も愛されている食材の一つです。
バジリコを使った代表的な料理はピッツァ・マルゲリータです。
ナポリの名物として広く知られています。
イタリア王ウンベルト1世と王妃マルゲリータがナポリを訪れた際に、ナポリのピッツァ職人が献上しました。
緑色のバジリコと白いモッツァレラチーズと赤いトマトソースが、イタリア国旗のトリコローレを表わしています。
そのため王妃は大いにこれを気に入ったと伝えられています。
それ以来ピッツァ・マルゲリータの名で呼ばれるようになったそうです。
イタリアのバジリコの中でも、ジェノヴァで栽培されているものが、最も香りがよいとされています。
その昔、地中海を行き交う船乗りたちは、潮風に漂うバジリコの香りでジェノヴァ港の方角と距離を知ったといわれるほどです。
そのジェノヴァを中心とするイタリア北西部の地方では、古くからペスト・ジェノヴェーゼが作られてきました。
ペスト・ジェノヴェーゼはバジリコを使ったペースト状のソースのことです。
ニンニクと松の実をすりつぶしてバジリコの葉と粗塩とチーズを加えます。
チーズはパルミジャーノ・レッジャーノとペコリーノ・サルドを使います。
エクストラ・ヴァージン・オリーヴ・オイルを少しずつ加えながら、さらにペースト状になるまですりつぶしていきます。
フードプロセッサーを使うと手間をかけずに作ることができます。
簡単に作られる割には香りと味が濃厚なソースです。
茹で上げたパスタをこのソースに絡めていただくと絶品です。
ジェノヴァではトレネッテと呼ばれる平たいパスタを使うようです。
私はよく青ジソを使ってこのペスト・ジェノヴェーゼを作ります。
さしずめペスト・ジャポネーゼといったところでしょうか。
バジリコも青ジソも同じシソ科ですが、風味はだいぶ異なります。
青ジソを使うときはチーズを入れない方がおいしいようです。
ジャガイモの粉吹き芋や鶏ササミ肉の蒸し鶏を作るときに、青ジソのソースで和えると信じられないほどおいしくなります。
イワシのグリルやメカジキのソテーやアジフライにもよく合います。
慣れ親しんでいるせいか、青ジソの方が魚介類に合うように感じます。
ただしトマトを使った料理には絶対にバジリコの方が合います。
バジリコとトマトは相思相愛の仲です。
両者を切り離すことはイタリアの国旗から緑と赤を外すようなものです。
バジリコとトマトを心から愛するイタリア人は決して認めないでしょう。
実際にイタリア国旗が正式に制定されたのは第二次世界大戦後です。
ピッツァ・マルゲリータが誕生したのはそれより前の19世紀の末です。
一般にイタリア国旗は緑が国土を表わし、白が正義と平和を表わし、赤が国民の熱血を表わすといわれています。
しかし、緑がバジリコで白がモッツァレラチーズで赤がトマトでも、どうやらイタリア人にとって間違いではなさそうです。